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京都スタジアムの現状について (H29年6月末時点)

たまには明るくて楽しい話をしたいので、今回は新スタジアムのお話。

 

京都新聞によると、6月議会において京都スタジアムの実施設計内容の概要が明らかになり、屋根がスタンドを完全に覆うだけでなくフィールドに少し張り出す形となっているとのこと。

 

全観客席に屋根設置 京都・亀岡スタジアム : 京都新聞(2017/6/28 22:00公開)

 京都府亀岡市に建設を予定する球技専用スタジアムの実施設計内容が28日、明らかになった。観客席最前列からフィールド側に約2メートル分、前に張り出した屋根で全席の頭上を覆う全国初の施設となる。試合開催日以外も会議室として使用できる個室付きのビジネスシートを約310席設ける。

 府によると、新スタジアムは高さ28メートル、地上4階の延べ床面積約3万3000平方メートル。2層式の観客席は約2万1610席を確保する。内訳は、一般席2万880席のほか、VIPシート(2階)約180席、ビジネスシート(3階)約310席、レストランに隣接し飲食しながら観戦できるスカイシート(4階)約180席、車いす席約60席。

 最前列席からプレーが行われるピッチまでの距離はバックスタンドから7・5メートル、メインスタンドから8・5メートル、サイドスタンドから10・5メートルと、間近でプレーを見られる距離にした。1人分の座席の幅は一般席が47センチ。VIP席は55センチで西京極陸上競技場より7センチ以上広い。

 北面と東面のスタンド下には、飲食店など10店舗程度が入居できる約1800平方メートルの「商業ゾーン」を整備する。東面の壁には、岩場を道具なしで登るスポーツ「ボルダリング」などができるクライミングウォールを設けるなど、多機能・複合型のスタジアムを目指す。

 

実施設計において部分部分修正がなされているからなのか、少し前まで見られる状態だった整備概要が見られなくなっていますが…それでも徐々に明らかになってきました。

www.pref.kyoto.jp/sisan/news/documents/seibigaiyou.pdf

 

京都サポですら現状をわかっていない人が多いでしょうから、現行の計画についてわかっている範囲内での情報を備忘録的にまとめておこうと思います。

 

 (7/6 19:00 一部追記・・・追記部分青字)

(下線アリ=リンク先参照)

 

 

はじめに。計画のあれこれ

話だすと日が暮れるので、1995年から今に至るまでの流れはどうぞwikiってください。今回はいま進めている計画の中身についてのみ言及します。アユモドキについても大方スルーで。

京都スタジアム - Wikipedia

 

現在の計画は、2010年の署名活動からの流れを汲んだ専用球技場整備計画(以降:現行計画)で、JR亀岡駅すぐそばにサッカー・ラグビー・アメフトなどの球技をする&見る場として専用球技場を整備するというものです。本来ならH28年度中にスタジアム竣工を迎えていたはず『でした』。

しかし、建設地付近に生息する天然記念物アユモドキの生息環境保全にまつわる調査に時間を費やしたほか、設計そのものが遅れるなどし、最終的には建設場所の変更に至った事でH29年度になった今も着工すらできていません。 ※H29年度1月着工予定

 

そういう色んな紆余曲折があったので、現行計画推進中に、スタジアム設備そのもの等様々なモノに変化が起きています。ここが把握しづらくなった部分?

大きな変化は3つあります。

 

 

 

一つ目の変化。「建設場所」

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亀岡スタジアム建設地変更決定 京都府が市に財政支援へ : 京都新聞

第一に建設予定地が変わりました。

当初の現行計画ではJR亀岡駅から北へ300m。桂川(保津川)と曽我谷川に挟まれた区域の土地が建設予定地だったのが、より駅に近い場所に。

 

元々は、「耕作放棄地になる前に都市開発を」という地元住民らの長年の要望もあり、亀岡市がJR亀岡駅北側の田園地帯をひっさげ、京都府のスタジアム建設地選定に立候補。

地元自治体が京都府に無償提供する形での整備が前提だったので、見事建設地に決まった亀岡市は地権者達から土地を買い取り、アユモドキを保護する共生ゾーンとスタジアムがある都市公園として整備していく形で計画が進められていました。

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 スタジアム事情や法に明るい方はご存知かもしれませんが、「都市公園法」という法律があり、一定の制約(設置できる施設の制限など)はあるものの、都市公園として整備をすると、公園となる土地の取得費用や上物の建設費用に対して国から補助金が下りるようになっています。

AC長野パルセイロの本拠地で知られる南長野運動公園総合球技場は、2015年に改修が完了した全面屋根付きのフットボールスタジアムですが、都市公園である南長野運動公園内にある為、"社会整備資本総合交付金"による助成を受ける事ができました。

なんと改修にかかる費用79億円に対して、国庫から38億円もの助成を受けています。

http://www.mlit.go.jp/crd/index/government/pdf/toshikouen.pdf

https://www.city.nagano.nagano.jp/uploaded/attachment/44993.pdf

 

スタジアム整備を行いたいけど財政的に…そんな地方自治体にとっては大きいですね。残念ながら財政事情が厳しい京都府亀岡市も、当初はこの恩恵にあずかろうとしていました。

 

しかし、先述した通り、「アユモドキの保護と速やかなスタジアム着工の両立を図るには建設地をズラした方が良い」との専門家会議の提言にならって建設地が移ることに。

都市公園内から、スタジアムと並行して都市開発計画が進められていた駅北開発地区に建設地が移る事となりました。

この第一の変化の結果、京都スタジアム計画そのものが大きく変貌する事となるのです。

(以下、当初案を「都市公園案」。最新の案を「駅北地区案」とします。)

 

 

 

2つ目の変化。「コンセプト」

第二の変化は建設のコンセプト。

環境が変わった事により、整備における考え方が変わりました。マインドが変わったともいうことです。

 

新たに建設場所となった駅北開発地区は、元建設地とは異なり商業施設などを建てる為に都市公園として整備しません。ですから、駅北地区案では先ほど紹介した社会整備資本総合交付金による助成を受ける事はできなくなりました。(※その代わり別の助成を活用できるように。後述します。)

一方、法による制限を受けずに自由な開発をすることが可能になり、スタジアムの複合化や多機能化が容易になったりするなどのメリットが生まれます。

 

当初の都市公園案では、「収支は赤字でも赤字額はできるだけ小さくする。その上で、賑わいを作ることで赤字額を補って余るだけの公益をあげよう」という考え方でした。

この考え方でも十分ではあるんです。「スタジアム・アリーナ改革指針」でも、単なる採算にこだわるのではなく都市開発の中できちんと投資以上の効果を出す事が大事だとされています。

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しかし、建設地変更や、着工延期を繰り返しているうちにスタジアム・アリーナ改革指針の発表など周辺環境が変化し…

現在の駅北開発地区案では、都市公園案の更にその上を行く)「利益も公益も上げるスタジアム」へと考え方が変化してきました

市立吹田サッカースタジアムも、採算面でプロフィットセンター化できているはずですが、京都スタジアムでも実現できるとなると素晴らしい事です。

 

 

スタジアムは、複合化や多機能化を実現できると「収益性の向上」などの様々なメリットが生まれるとされています。

www.nikkei.com

これまで日本においてサッカースタジアムの整備が進んでこなかった最大の要因は「黒字経営のスタジアムがない」事です儲かるのならみんな進んでやりますよ。民間企業も。

でも、残念ながらそうではなく――。京都スタジアムの整備が進んでこなかった原因でもありました。

公共性を重視して利便性の低い所に陸上競技場を建てる

人が入らない

自治体の負担に

 

利便性の低い所にサッカースタジアムを建てる

ある程度人は入るが稼働率が上がらない

自治体の負担に

こうした負のスパイラルのせいで成功事例が生まれず、競技人口・人気と反比例して後回しにされてきた訳です。

(「日韓W杯のスタジアムの内黒字は札幌ドームだけ!」とは言うモノの、各施設の残念な立地や機能、残念な観戦環境、小型フットボールスタジアムの比ではない高額の維持費などを考えたら、コストセンターになるのは必然… ※カシマ・ノエビア神戸は例外)

 

現に、Jリーグブーム時や大規模大会誘致によってサッカースタジアム・フットボールスタジアムを建てた所はありますが、それ以外でJ1規模の陸上競技場ではないスタジアムが整備されたのは、アルウィン(松本)・フクダ電子アリーナ(千葉)・南長野・市立吹田・北九州のたった5例のみです。

 

 

話を元に戻します。

利便性の高い場所に複合化・多機能化されたスタジアムを整備できるようになると、整備時に民間資金を調達できる可能性が高まったり、整備後の収益性が上がって黒字経営が可能になります。毎年の黒字分で初期投資費用を回収できる可能性も高くなります。

すると、自治体にとっては施設を整備しやすくなりますよね。

 

またJリーグクラブを既に応援している方なら実感されている事かと思いますが、サッカー観戦を通じて郷土愛が深まったり、観光の機会が増加したり、スポンサー企業の製品を愛用したり、人と繋がったり、政治や社会問題に関心を持ったり、人々の生活に"ポジティブな変化を起こす力"が地域密着型のスポーツクラブにはあります

そうしたポテンシャルがようやく評価され、国策という言い方はあまり好きではありませんが、国家戦略の一つとしてスタジアム・アリーナ改革が進められているのは紛れもない事実。

http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2017/0609/shiryo_07-4.pdf

 

京都スタジアムはそんな状況の中で進められている計画である為、京都スタジアム計画の結果いかんでは、単に日本のスタジアム事情が変わるだけでなくて日本全体を変える可能性があるのです。

 

Jリーグのポテンシャルが最大限に発揮される事で、Jリーグクラブとスタジアムをハブに、人と行政と企業らが相互に繋がる。

教育問題・郷土愛の育成地方活性化や地域創生災害対策IcT推進働き方改革国際交流・観光振興・産業振興と税収増加・健康増進と社会保障関係費の減少・少子化問題

もうどんどん人口と税収が減少していきますから、様々な社会問題を抱える我が国および各地方自治体にとって、今がスポーツの力を活用して変化を遂げるラストチャンスなんです。

(※沖縄や甲府などのスタジアム計画はまだ設計にも入っていないので、先行事例となるのが本計画)

日本スポーツの5か年計画がスタート(2017年4月~2022年3月):スポーツ庁

 

現に、この京都スタジアム計画では内閣府からの助成文部科学省からの先行事例の指定を受けて民間事業者による運営管理の検討がなされています。

また、カフェやレストランなどの付帯施設とは別に、商業施設を設置できるスペースを基本設計段階で設けています。

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これらによって、サンガを含む民間企業が府に代わってスタジアムを維持管理し、スタジアム管理事業で収益を得る可能性も高まってきました。

 

完全民間主導で整備した市立吹田サッカースタジアムも非常に大きなプロジェクトで、良い先行事例だとは思います。

ただ、指定管理者制度の活用を含めた「自治体が施設を整備し民間が管理する」「整備段階から民間活力を活用する」形が今後も主流となっていく可能性が高い事と、スタジアムでのコンセッション方式導入は日本で例がないことから、この京都スタジアム計画にかかる期待は非常に大きいと言えます。

(だからこそ、管理者になる・ならない抜きに、京都サンガにかかる責任も大きいのですが…………泣)

 

 

 

3つ目の変化。「スタジアム設備」

最後にスタジアム設備の変化。

やはり我々見る者が一番気になるのは快適に観戦する為の環境。結局コレが整っていなければ意味を成しません。

 

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先述した建設地の変更とコンセプトの変化から、いくつか設計中に変更された点があります。

都市公園案(画像上)と駅北開発地区案(画像下)とでは、「楕円形から八角形に」「スタンドが一層式から二層式に」などの変化のように見た目でわかる違いもいくつか。

 

面倒なので簡素にまとめて見ましたが、

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こんな感じに。

 

今年開業のミクニワールド北九州スタジアムがフィールド面積122.6m×85.2m市立吹田サッカースタジアムで125m×82mほどですから、これらと同様にピッチと近い所で臨場感あふれる観戦体験ができる事でしょう。

レベルファイブスタジアムキンチョウスタジアム(1~2期改修後現在)のように、ラグビーに合わせて長めにフィールドを取ったりしていないので、サイドスタンド(ゴール裏)の見づらさを心配する必要はなし。

 

それから、高さが低くなった事で試合を俯瞰で見る為に必要なスタンドの傾斜を心配する声もありますが、国内最高峰40度の傾斜を誇る鳥栖最高高さ29.5m(2.5万人収容)なので期待はできると思います。

 

また、当初はフィールドとの高低差を無くした"ゼロタッチ"を謳っていましたが、通風口を設けて芝の育成に役立てる為に1.2mかさ上げされる事となりましたちなみに、市立吹田サッカースタジアムが1.5mとの事です。

より質の高い試合を行う事とコンサートなどイベント利用を考えると、芝の育成を配慮したのは間違いなく正解だと思います。

※ちなみに芝の育成にはサンガも興味を持っているようです。

 

 

付帯施設・複合施設で収益を設ける事も大事だけど、まずはスタジアム本体で維持費以上の収益を生む事が大事。

その為にも、まずはサッカーら球技のポテンシャルを最大限に発揮できるふさわしい器に仕上げなければならないし、ポテンシャルを発揮する為のホームチームの頑張りも不可欠……

いまのところホームチームの頑張り以外は問題なさそうです。。。

 

 

 

今後の動き

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現在は、「実施設計」と「運営権の売却または管理の民間委託に関する調査・検討」の真っ最中。

今後は、

2017年 8月 工事そのものの入札

2017年12月 議会提出

2018年 1月 工事着工(議会で承認される・アユモドキ育成に影響と認められた場合)

2019年 8~12月 竣工

2020年シーズン 供用

 順調にいけばこのように進んでいくとされています。

京都・亀岡スタジアム議案可決 工事着手へ準備完了 : 京都新聞

 

 

運営権や付帯施設については、のちのち報道などで明るみになるでしょう。

 

たこの間、京都スタジアムでも寄付を個人や法人から募って税負担額を減らすとの報道がありましたので、寄付と引き換えにネームプレートを掲示できるだとか、そういう施策の実施が今後あるかもしれません。

ミクニワールド北九州スタジアム都市公園に建てたスタジアムでもなく、いわゆる"吹田方式"でもありませんが、ふるさと納税制度活かした寄付が実施されました。

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まだの方はどうぞ今から京都スタジアム貯金を。

(ちなみに、セレッソの桜スタジアム計画では寄付金受付を実施中です

 

 

 それから、先述した通り社会整備資本総合交付金の活用はできなくなったものの、代わりにスポーツくじtotoの収益による助成を受ける事が可能になり、無事に採択されたので30億円の助成を受ける事が確定しました!

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吹田・北九州に続く、3例目となります。次はリニア駅付近に建てた場合の甲府かな~

この助成金で府の負担が減りますし、初期投資費用が抑えられるので収益性↑

更に、toto助成は「スタジアム整備を目的とした助成(例:社会整備資本総合交付金)」以外であれば併用できるようになっているので、市立吹田同様に国交省などからの助成金を受け取る可能性もあります。

 

 

 

スポーツ文化の発展土台として、また閉塞感のある府・亀岡市・サンガの起爆剤となれるのかどうか。

アユモドキ保護が最優先ですから、場合によっては着工の延期や工事の中断もあり得ますが、長年待ち望んできたフットボールスタジアムの完成までもう少しです。

 

 

P.S.

気が向いたら次はスタジアム整備費用か施設運営形態について軽くまとめます。

(2017/8/19追記:費用について触れたよ↓)

 

 

 

 

 

 

●資料

スタジアム・アリーナ改革ガイドブックの公表について:スポーツ庁

平成 28 年度 PPP/PFI に関する支援 支援対象の決定及び二次募集について:内閣府

文教施設における公共施設等運営権の導入に関する検討会 議事要旨・議事録・配付資料:文部科学省

スポーツ未来開拓会議 中間報告:経済産業省

スポーツの未来に向けて「スポーツ未来開拓会議(第3回)」:公益社団法人日本プロサッカーリーグ

「企業立地促進法の一部を改正する法律案」が閣議決定されました(METI/経済産業省)

日本再興戦略 未来投資戦略2017(ポイント)

第2期スポーツ基本計画について(答申):スポーツ庁