+1 プラスワン

不思議な指揮官、中田一三

 

未だ底が知れない――

 

SNS上で歯に衣着せぬ発言をしたかと思えば、試合後のインタビューでは不敵に笑みをこぼしばがら「(自身の交代策的中について)んー、覚えてない(笑)」などととぼける。

 

就任時の前評判を覆し、ポジティブな意見が並ぶこの状況を誰が予測したであろうか。中田一三監督率いる京都の好調ぶりは、今季のJ2におけるサプライズの1つと言える。

 

 

 

偶然の産物

Jリーグでの指揮経験ナシ』。監督経験の無い布部陽功元監督の下、どん底を味わい続けてきた京都にとって、実績・経験に乏しい氏を起用する事は極めてリスキーな行為であった。そして、時系列的に言えば、氏をピックアップできる立場に居たのはそのどん底の生みの親である小島卓前強化部長以外に居なかったと思われる。

 

混沌を生んだ人物がまたもや経験の無い監督を引っ張ってきたであろう状況。J2 19位に沈んだチームながら予算面の問題もあり戦力の増強は望めない。強化部長を"追放"できたは良いが、代わりの編成スタッフは『親会社から出向してきた元Jリーガー』『スカウト1年生の元レジェンド選手』『幾度となく失敗を繰り返し事業部門に配置転換させられた元強化責任者』。

そこに追い打ちをかけるように、新監督のSNSでの目立ちっぷり。

 

 

 

「なんとか新スタジアム元年をJ3で迎える事だけは避けたい」というのがサポーターの本音であり、クラブにとっても本音であったと思う。個人的にも今年の目標は勝ち点45獲得・J2残留であった。

 

 

 

だが、蓋をあければこの状況である。世の中わからないものだ。

新任指揮官を支える為か、ゲルトエンゲルス實好礼忠佐藤一樹S級ライセンス保有コーチを多数補強したこと。庄司・黒木ら18シーズン夏に補強した選手が残留し、かつ新たなサッカースタイルへの適応力が高かったこと。最小限に留まったストーブリーグでの補強において他クラブから獲得した宮吉・安藤・加藤がピッチ内外で好影響をもたらしていること。様々な要因が偶然にも絡み合い、ポジティブな結果をもたらしている。

 

クラブ全体を見通した時に、この現象に再現性があるとは思えない。だが、少なくともピッチ内における再現性は高く、現体制の内は保たれ続けることだろう。

中田監督は、「チームの土台無くして個人の自由なんて無いと思う。ただ、ひらめきや個の特長は選手が感じたときに発揮されるべき。それが思った以上に早く出てきてくれたかな」と語る。(エルゴラッソ5/17版より)

元監督もそれらしきことを語っていたが、現指揮官は口だけではなく実際に落とし込みができており、しかも想像を上回る速度で浸透しつつある。

 

 

 

一昨年の今頃、我々は週末のたびに地獄絵図を見ていた。


 
 

 

 

 

それが今や、選手の苦悶に満ちあふれた表情も、罵声も、陳腐な精神論もない。勝ち負けだけが全てではないが、結果に関わらず、週末の試合が待ち遠しいという気持ちで日々の生活を送れることほど良いことはない。

 

個人的には、いまはまだJ1に届くほどのチームではないとシビアに見積もっている。足りない部分はまだまだある。だが、このまま組織として成長を果たし、コンスタントに勝ち星を積み重ねることができるようになれば、物置の奥底にしまいこんでしまった「昇格」という言葉を胸を張って言えるようになる日は近いだろう。

無論、昇格だけが全てではないが、今は只このチームと共に行けるところまで行きたい気持ちで一杯なのだ。