今年は創作意欲(?)があるのでシーズンの振り返りを書こうと思うのだが、
振り返る前に、整理の為にも語っておくべきことがある。
それが今回のテーマ。
失われた10年
サッカー界は資本主義社会。
日本のプロ野球のように、球団側に絶対的な権限があって、ドラフト制度のように戦力均衡の為の閉鎖的社会があえて築かれている訳ではありません。ましてや、国外を含めプレーする場の選択肢は星の数ほど。
選手が選ばれる側ではなく選ぶ側に立つことができ、流動的である以上、金銭による引き抜き=移籍市場は活気を増す。最近ではトップオブトップのプレーヤーでなくとも100億円を超す移籍金が発生するようになり、馬鹿げたディールの数々に呆れ声も聞こえますが、収束の気配はありません。
いつかバブルが弾ける時が来るのかもしれない。けれども今はまだ、世界のサッカー界はビッグバン真っ只中。膨らみ続けています。
これは日本においても同様で、更に今、明らかに陰りが見えつつあった中で2ステージ制の導入と引き換えに資本を得たJリーグは、その危機を見事に乗り越えました。DAZNやIT系企業の参入など資本が集まりつつあり、各クラブ共に財政基盤を確固たるものにしようと奮闘しています。今後より一層マネーゲームは激化し、格差は拡大するでしょう。
現に、持たざるものが格好の餌食と化すのは、ここ1~2年間の移籍市場にも現れています。シーズンオフを待たずとも、夏のウィンドーでJ2の有力株がJ1強豪クラブに引き抜かれていく姿は、間違いなくその表れ。
そんなJリーグにおいて、残念ながら京都サンガは「負け組」に位置します。
(1/2) Jリーグの53クラブの「2005年~2017年までの年度別の営業収益」を1つの表にまとめてみた。2005年と2017年の比率に注目すると1位はサガン鳥栖で783%。4.28億円→33.50億円まで拡大している。竹原社長は厳しい批判を浴びているがプラスの面も少なからずあった。 pic.twitter.com/1e8Tv7T7v2
— じじ(サッカーコラム J3 PLUS+) (@J3Plus) 2019年5月8日
近年Jリーグに加盟したクラブは勿論のこと、ほぼ全てのクラブが収入を伸ばす中、上記の通り京都は極めて数少ない『右肩下がり』のクラブ。
名だたるスポンサーがついていながらJ2に留まるとは情けない…とはよく言われるものの、そもそもその名だたるスポンサーの割には貧乏なのが実情。
(3/3) 「2011年の広告料収入と比較したときの増減率」に注目するとサガン鳥栖が647.2%と凄まじい成長ぶり。FC岐阜・ヴィッセル神戸・湘南ベルマーレも300%以上になる。横浜Fマリノスもほぼ2倍。モンテディオ山形・ファジアーノ岡山あたりも順調に数字を伸ばしている。 pic.twitter.com/kF9ng6FIDi
— じじ(サッカーコラム J3 PLUS+) (@J3Plus) 2017年11月7日
メインスポンサーである京セラをはじめ、任天堂・日本電産・村田製作所と1兆円企業が4社存在する京都ですが、この内スポンサーを務めるのは3社。日本電産には18年限りでスポンサーを下りられてしまう始末。
その他にも、au・大和証券・JAL・ワコール・オムロン・ローム・堀場製作所・島津製作所…挙げればキリがないくらい著名な大企業が多数スポンサーに名を連ねるにも関わらず、近年は広告料収入は11~12億円程度。
今季、最終戦で対戦した柏レイソルはメインスポンサーである日立製作所からのスポンサードだけで推定13億円を誇っており、日立製作所1社>京都企業総勢というのが悲しい現実てす。
(「今の京都サンガが現状のスポンサー料に見合う価値を提供しているのか?」と聞かれると答えに窮するのですが……)
「30億のうち13億は日立からいただいているスポンサー料です。その他6億は日立グループが主な相手先となるスポンサーで」
今季最終節、13-1の記録的大敗の後、中田監督は「クラブ総合力と個の能力の違いがしっかりハマった」と振り返ったが、事実、資金力において柏と京都、もといJ2他上位クラブと京都との差は歴然でした。
(J1復帰を決め、13-1で大勝した試合後にも関わらず社長に大ブーイングが飛ぶくらい柏は柏で問題を抱えているのだがスルーします)
※2019年度J2加盟クラブの2018年度チーム人件費をランク付けしたもの。単位百万円
そこで今回は、お遊びとサポカン(するのか知らんけど)対策を兼ね、視点を戦力強化のみに絞って京都サンガは今後どうお金を集めるかというお話。
新スタジアムとお金
Jリーグクラブの収入源は大きく分けて主に5つです。
①入場料収入
②広告料収入
③分配金
④物販収入
⑤スクール収入
の5つ。
一応補足をすると、①はチケット代から得られる収入。②はスポンサー企業などから得られる収入。③はJリーグから得られる分配金のことで、放映権をリーグが一括管理しているJリーグにおいては放映権料収入が分配金の主な原資。④はグッズ販売で得られる収入。⑤は運営するサッカースクール事業で得られる収入。
この他に、賞金や移籍金、独自の事業展開によって別途収入源を確保しているクラブもありますが、ベーシックな収入源としてはこの5つが挙げられます。
この5つの内で最も重要なのは①の入場料収入であり、理由としてはファンが多ければ多いほど広告価値が生まれ、物販収入の伸びが期待でき、かつ愛着あるファンを増やすことは企業スポンサーと異なりどんな状況でも支えてくれる小口の支援者となり、収入とブランド価値の源泉であるからです。ここを伸ばせると他も伸びてくる。
で、京都の収入源の特徴としては、伸び悩みが酷いとは言え広告料収入が占める割合が高いこと。
(2/3) 今度は営業収益に占める入場料収入の割合について。1位は浦和レッズ、2位はコンサドーレ札幌、3位はベガルタ仙台、4位はアルビレックス新潟、5位は松本山雅。地方クラブが多い。ワーストは徳島ヴォルティス、ブービーは京都サンガ。 pic.twitter.com/JMgKpyArkE
— じじ(サッカーコラム J3 PLUS+) (@J3Plus) 2016年7月24日
合計収入が 18億円~20億円に対し、11~12億円計上しているので約60%を占めます。その代わりに収入の源泉である入場料収入の比率は上記の通り少ない。理想形の逆。
こうした事から、『親方日の丸体質』クラブの1つとして挙げられることが多いのが実情です。
この状況を打破する最大のチャンスこそが、来季からホームスタジアムとして使用する"サンガスタジアム by Kyocera"。
駅から徒歩3分の全席屋根付きのフットボールスタジアムは観戦環境としては抜群。
西京極のアクセスが大変優れている事と路線が全く異なる(阪急→JR嵯峨野線)為、従来の新スタジアム移転パターンと異なり「アクセス改善」というメリットがないのは読めない材料ですが…
前例では、新スタジアム移転に伴い各クラブ共に入場者数が150%ほど増加しており、伴って収入の源泉である入場料収入の増加が見込めます。
ここでガンバ大阪の事例を。
周知の通り、ガンバ大阪は新スタジアム計画を遂行し、2016年より4万人のサッカースタジアムへ移転を果たしました。以下の表は移転直前直後のガンバ大阪の収入・支出の一部のみを抜粋したもの。
※2015~2016年度ガンバ大阪の収入・支出項目の一部。単位百万円
入場料収入が大きく伸びを見せ、前年度比6億円増。営業収益50億円の大台に乗せました。
一方で支出の部分、試合関連経費が4億7千5百万円増。これは2万人の陸上競技場から4万人のサッカースタジアムへ移転した事で増加した運営スタッフ等試合開催にかかる経費の増大と、自ら指定管理者として運営を担う新スタジアムの維持費約5億円が影響しているものと思われます。
ただ単に客を増やして入場料収入を増やそうとしても、かかる経費も比例して増加するので利ざやは大きくはありません。現に、この2年だけを見ると、入場料収入の増加でチーム人件費への投資が増やせたかというと答えはNO。
京都の場合、2万人の陸上競技場から2万人のフットボールスタジアムへの移転なので大規模な経費の増加は考えられにくいですが、それでも1試合の使用料は現本拠地の1.5倍程度であり一定程度負担は増加することは間違いありません。(個人的には箱に見合ったお金を支払うのは当然だと思います。)
ではただ単なる収入増だけではなく、より収益を生むにはどうすればいいのか。
答えは簡単。客単価を上げることです。
大幅なチケット値上げの断行を
客単価を上げることで上がる変動費も当然あるかとは思いますが、かかる経費をそのままに収益を伸ばすには、まずはチケット値上げです。
新スタジアム移転はチケット価格見直しの最大のチャンス。観戦環境が整っていなかった今までは一般前売チケットの最安値で1500円という価格でしたが新スタジアムの観戦環境を考えれば私は2500円の値を付けていいと思います。
もっと言うと、西京極においてSB自由席に当たるバックスタンドの自由席、こちらを2500円に。熱心なサポーターが集うゴール裏はそれより高い価格(例えば2800円)で良いと思います。お金は取れるべきところから取るべきです。
他クラブの例を出すと、前売2500円のガンバ大阪は年間チケット(20試合)を36400円で販売しています。前売2400円の名古屋グランパスは38400円(同)。これらを参考に2800円×21試合×0.6掛けで35000円なら現行対比で倍近くの値上がりにはなりますが、せいぜい遠征1回分の値上がりです。交通費に消えるよりも愛するクラブに費やす方が納得もいくでしょう。
代わりに、U22世代の価格は1千円以下に抑えたり、ファミリーで観戦しやすい低価格席種を別途用意するなど対策を施せばよい話。なにより、値上げに伴って得た収益を経験価値向上に費やし、結果満足度が高まるのであれば我々にもメリットはあります。
しつこく言います。ここしか無いのですチャンスは。
30億円台を目指して
話を少し戻します。J1昇格および残留するクラブの目安として、昨今は営業収益30億円・チーム人件費10億円強はマストになってきつつあります。
今期のトリニータのような例もありますが、J1へ定着するには、ゆくゆくは鳥栖や札幌のように30~40億円確保しなければマネーゲームに対応しきれません。
とはいえ、25億円がMAXの京都にとって30億円台など夢の夢なので、今回は目先の数字だけを想定しましょう。スパンを長くすればするほど筆者の知性のなさがバレますので…。将来的には、チケット収入10億円弱:広告料収入20億円強:その他計10億円で40億円は確保しなければと思います。
以下は2015年からの京都サンガの各収入とチーム人件費の推移です。
2015年の特徴としてはその他収入が多くなっています。奥川選手の移籍金をはじめ臨時収入が助けてくれた年です。
2016~2017年は赤字覚悟でチーム人件費に投資した結果、赤字を計上しています。収入面ではDAZN効果によって増加した分配金以外と2年に1度の新ユニフォーム販売によって増加した物販収入以外は特段変化がありません。物販収入という項目については、この年から移籍金や賞金らによる収入と区分けされて公表されるようになりました。
2018年はJ3降格危機を迎え、メインスポンサーから思し召しがあったおかげで広告料収入が増加しています。また、チーム人件費を1億6千万も削減したことで3期連続赤字を免れています。
2019年。当然まだ決算を迎えてないので推測ですが、昨年度増加した広告料はおそらく元通りでは。前述の通り日本電産も下りましたし。代わりに、入場者数が前年比5万人弱増加しており、招待プロモーションによる来場が多く客単価が100円下落したと仮定しても、3千万から5千万程は入場料収入が増加しているはずです。2年に1度のユニフォーム一新の年ですから物販収入は17年並みに、その他収入では岩崎の移籍金・育成費が前年対比微増くらいにまで押し上げているかなと。
一方の支出ですが、コーチングスタッフの拡充に資金を費やしたとの報道が開幕前にあったので、チーム人件費は昨年度対比で若干増加し、その分赤字計上と読みました。
そして、2020年。(予想を通り越して希望な気もしますが…)
改めて、J1へ自動昇格するには10億円程度のチーム強化費が用意できるか。8.5億円は確保したいところ。なお、クラブライセンス制度導入以降、各クラブは総予算の40%台でチーム人件費を確保しています。これはチーム人件費による経営圧迫を防ぐ為ですね。京都も赤字覚悟で予算編成した以外は40%台。つまりは20〜21億円強は欲しい。
入場者数が今季の1.4倍の平均1万人台へ到達&前述の通り客単価を上げにいって、単純計算1800円×21万人で3億7千万円。入場者数増加に伴って新ユニフォーム等物販の伸びと、メインスポンサーらからの「お布施」で新スタ初年度に相応しい収入の伸びを実現できれば、8億円は必ず達成できます。スポンサー収入の積み上げ次第では、表にある通り9億円到達も天文学的数字ではありません。
サポーターにできること
チーム人件費増加に向けて、我々にできることはまずシーズンパスを購入することです。
販売が開始され次第、すぐに購入しましょう。初動が良ければ良いほどスポンサー企業へのセールス材料になります。クラブにすぐキャッシュが入ります。これ以上の後押しはありません。
そしてシーズンが始まったら、待望の新スタジアムに人を招きましょう。
「ラスト西京極を2万人に」、その勢いを開幕から出す時です。「亀岡は遠い」、そんな声をかき消すだけの魅力を発信しましょう。
新スタジアムは我々が望んだ舞台なのです。求めるだけ求めて、金も出さず、ぬくぬくと開業直後の不馴れな点に批判をするのは違うと思います。求めたからにはそれ相応の対価を支払い、よりよくする為の知恵を働かせるべきではないでしょうか。パナソニックスタジアム吹田が開業した頃、あろうことか「新スタでは勝てない」などとスタジアムに責任転嫁するような一部のガンバ大阪サポーターも居ましたが、そんな悲しい話はありません。
そしてクラブ。
今回、今季の総括としてサポカンが開かれるのかどうかはわかりませんが、本来サポカンの場で「◯◯年までに◯億円到達を」と数値目標を用いながら協力を要請するのはクラブの仕事です。絵を描くのはクラブにしかできないことです。
他クラブ、特に近隣のガンバ大阪とセレッソ大阪。この2クラブのサポカン資料は毎年目を通していますが、最低限やるべき事をやっています。
やはりこのような当たり前の事ができないあたりが、諸々の結果に表れているとしか思えません。
「できるけどやらない」ではなく、「できなくてやっていない」に映るのですよね。
他クラブは、収入の柱を太くする取り組みと、柱の数を増やす取り組みを既にスタートさせ、成果を確実に出しつつあります。
京都も、新スタジアム開業と運営権の獲得という大きなチャンスを迎えています。
ここでもつまずくようでは、「優勝を目指す」とか「J1を目指す」とかいう生き方はできなくなるでしょう。いわゆるブロビンチャとしての生き方を探るのも悪くはありませんが…
まあ、まずは實好監督就任に至った経緯を含め説明してくださいな。