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京都サンガF.C. 2020年シーズン個人的展望

 

 

偶然の産物

2020年を語るには2019年を少し振り返らなければならない。

が、長々と振り返りたくはない。

細かい部分については優れたレビューがいくつかあるだろうからそっちをご覧ください。

ここでは1つだけ紹介します。

 

 

まあ、端的に語ると、昨季の京都は4-1-2-3の基本布陣を敷き、ボールを大事にするサッカーを展開した。

 

巷で言われる『ポジショナルプレー』は、上記のように単に「ボールを大事にする」とかで表現される類のものではなく、京都のサッカーも同様であった。

だが、ポジショニングを意識する事で速やかなボール回収と効果的なボール保持を図り、得点増と失点減を実現しようとしていたチームであったのでこう表現する。

 

 

昨季の京都のスカッドは、ボールテクニック面で非凡な選手がたまたま一定数揃っていた一方で、わかりやすい力強さを備えた選手はほぼ居なかった。また、監督に就任した中田一三氏は、就任発表当初は手腕も含め謎に満ち溢れた指揮官であったが、サッカーの本質とも言える『グループでゴールを陥れるプレー』に対して想いを持っている人物であり、「スタイルがない」と揶揄される京都の監督を務める上で根幹となるものを植え付けたかったのかもしれない。

素早い攻守の切り替え。効果的なポジション取り。良質なウイング。軸となるCF。ボールテクニックに優れたDFライン…

新指揮官を含めた編成の妙と言うべきか、怒られるかもしれないが、偶然に偶然が重なりあって「ボールポゼッション率を高める事で受け身に回った時のひ弱さを隠しつつ相手ゴールをより陥れる」チームができあがったのだと個人的には思っている。一期一会。

 

シーズンを2位で折り返しながら最終的にPO進出すら達成できなかったのも事実。13-1で敗戦したのも事実。

だが、昇格POに進出した2016年と比較してマイナス1の勝ち点68を積み上げたのも事実。素敵なチームであった。

 

ここからどう更に積み上げを図り、昇格に繋げるのか…?

 

 

今オフの編成ポイント

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という訳で今オフのポイントは大きく5つ。

①一美の買い取り
②小屋松・仙頭ら現有戦力の慰留
③センターラインの強化
④層の薄さの改善
⑤強力な"個"の積み上げ

 

①と②は言わずもがな。一美、小屋松、仙頭の3名はチーム総得点59のうち6割強の36得点を稼いだ名実ともにチームの顔。躍進の要因となった選手達を慰留した上で不足部分を補うのが補強である。

 

③④はCB・ボランチを筆頭に計算できる選手数の少なさ。何度も逃げ切りに失敗したベンチワークに影響した側面は否めず、シーズンを通じて前年までの低迷と資金力のなさは影を落とした。

特に、4-1-2-3の4と1の部分。昨年は4バックとアンカーにはかなり悩まされた。4バックについては、一時期は石櫃・安藤・本多・黒木と開幕当初SBとして考えられていた選手で形成され、その他ボランチが本職の福岡もSB起用されるなど後方からの組み立てを重視するが故に単純な守備力そのものは二の次となっていた他、1人が怪我すると代わりがいない状態であった。そんな中で本多が最終節にてアキレス腱断裂の大ケガを負ってしまったのだが…

アンカーについては庄司が絶対的司令塔として君臨するも、やはり構造的に難しいものがあった。13-1の捉え方は人それぞれだが、ただ単なる不運な負けと片付けていては当然ながら成長はない。シーズン半ばから突かれていたアンカー脇のスペースどうするか問題を解決するには、構造と人そのものを見つめなおすほかない。

 

⑤については①~④全てと被ってしまうが、やはり個の能力の積み上げは必須。

甲府にはダヴィが居た。神戸にはポポとエステバンが居た。福岡には中村航輔が居た。磐田にはジェイ・アダイウトンカミンスキーが居た。セレッソと名古屋は苦しみながらも個の力で勝ち上がっていった。そして柏には中村航輔クリスティアーノもオルンガも居た。

昨夏に中坂と藤本を獲得するもうまく振るわなかった京都。補強ポイントが違ったのではないかという声はわかるのだが、それは結果論。デブライネが欲しかったのだと考えたらインサイドハーフに手を出したのもわからなくはない。そう、我々はデブライネも欲しいし、カンテも欲しいし、個で守れちゃうのにボールも繋げるCBが欲しいのだ。

そういう意味では京都の理想を体現したマリノスと神戸がタイトルにありついたのは必然か。

 

 

はてさて、①~⑤のポイントをどれほどクリアできたかというと…

 

 

 

『大型補強』はフェイクニュース。不安要素が消えぬ編成に

 

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(※キャンプ前に勝手に並べた図。実際はこの配置ではないようだ)

 

まず、5点のポイントについて語る前に1点補足しなければならない。

 

それは昨シーズン終了直後、昨年京都が躍進した原動力である中田一三監督が退任し、内部昇格で實好コーチが新監督に就任したことである。

 

これにより5点のポイントの前提が既に狂った感はある。前体制の踏襲を語る實好監督だが、石丸→布部の継投が史上稀に見る大炎上を果たしたように、ある程度成果をもたらした計算の立つ人物から監督未経験の人物への継投により我々見る側の予想もかなり難しくなった。

とはいえ、大きくガラガラポンするつもりはなく、基本布陣として新監督が思い描くのは昨年同様に4-1-2-3と3-4-3。なによりボールとポジションを大事にするサッカーというコンセプトも変えないようだが…

 

本筋に戻る。

 

①一美の買い取り⇒失敗もリカバー十分 80点

保有権がない以上、致し方ない事ではある。とはいえ、トップスコアラーであり、何より最前線で攻守に体を張り続けた選手を失ったのは大きい。

しかし、普段の京都と異なったのは、甲府からリーグ4位の20得点を挙げたウタカを獲得。横浜から李忠成を、湘南を満了の野田も獲得し、質・量共に一美の穴を埋める手当てを素早く打つクレバーさを見せた点。得点以外の部分での貢献も大きかった一美に代わる若手選手などメルカートに流れてこない事を考えると上出来ではないだろうか。

 

②小屋松・仙頭ら現有戦力の慰留⇒失敗 55点

想定されていた結末に終わってしまった。両翼はそれぞれ鳥栖横浜FMへステップアップ。我々は鳥栖への移籍がステップアップとなる事を改めて考慮する必要がある。

更に、夏以降負傷等もあり浮いていた重廣が昇格のライバルとなる福岡へ流出。出場機会に恵まれていなかった湯澤は小屋松同様に鳥栖へ移籍。一美同様にプレータイムの長い前線のタレントが流出したダメージは非常に大きく、駒井・伊藤・宮吉が同時流出した2015年オフを思い出さざるを得ない。

磐田から荒木を、横浜FMから中川を、甲府から曾根田をすぐに獲得するなど、一美の穴埋め同様にクレバーさを見せた強化部だが、抜けた穴が大きすぎる故に補強の是非は未知数。特に、曾根田の獲得は重廣の上位互換としてインサイドハーフ(IH)でのプレーに計算が立つが、サイドアタッカーが3枚抜けたのに対してinは実質荒木のみ。中川はサイドよりもIHタイプのようだ。3トップを敷こうとする新指揮官は、現在キャンプの練習試合において大卒2年目の中野と荒木をサイドアタッカーの1stチョイスと考えているようだが…

仙頭・小屋松の流出は一美同様わかりきっていた話。故に荒木らの早期獲得に繋がったのだろう。しかし、次点であるジュニーニョとのスペック差などシーズン中にも如実に表れていた課題の解決方法としては質・量共に物足りない。

外国籍選手枠にアダイウトンクラスを連れてくる事でJ2 10年目のハンディを消しにかかるくらいのアクションがないとこのリーグは勝てない。

 

③センターラインの強化⇒手をつけるも構造的欠陥は解決できず 45点

前述のウタカと曾根田のほかにCBにヨルディバイスを獲得。しかし、足りない。圧倒的に足りない。

今年のJ2はどこも苦労している。苦労しているけれども、確実にセンターラインのテコ入れに成功したクラブはいくつかある。大宮は櫛引・ファンマ・茨田らがoutとJ2 3年目の予算編成の厳しさを覗かせるが、東欧路線でテコ入れを図る。磐田は大南・カミンスキー・川又・アダイウトンらJ2降格の痛みを感じつつも、小川・中野の復帰や大森・フォルリン・大武で穴埋め。岡山はイヨンジェ・上田を残しつつ、上門・パウリーニョらを補強。反逆を期す福岡・千葉の積極補強も光る。

相対的に見ても劣るほか、なによりボランチの補強が荻野の復帰のみというのは…自らテーマとして掲げていながらこの出来では厳しい。

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④層の薄さの改善⇒昨年の課題は忘れたのか? 50点

①~③で挙げた様に改善に動いたが解決には至らず。特にCBとボランチボランチの補強はブラジル留学から復帰の荻野のみ。CBはバイスと浦和を満了になった森脇を獲得し、讃岐から復帰の麻田とこれまたブラジル留学より復帰の江川。バイスと森脇以外は何れもユース卒のプロ入りまもない若手であり、昇格を狙う為の戦力としてはカウントし難い。

森脇については3CBの1枚としてはアリかもしれないが、4バックの2枚で、しかもバイスと組ませるタイプの選手ではない。引退の闘莉王をはじめ、牟田・下畠・増川とCBは頭数も減っている上に本多のアキレス腱断裂を考えるとボランチ同様に不安が大きく残る。

一方、違約金を払ってまで清水より右SBの飯田を獲得するなど、右SBについては石櫃・森脇・安藤・飯田+福岡と過剰に厚くなっているが…左SBについては昨年絶対的存在であった黒木と大卒2年目の冨田のみ。元々本職の本多は何度も言うがアキレス腱断裂中。編成のアンバランスさは否めない。

 

⑤強力な"個"の積み上げ⇒名より実を取る補強は好感もややインパクト薄 55点 

ウタカとバイスの計算できるJ経験外国籍選手は大いに頼りになる。バイスについては例年の課題である「セットプレーからの得点増」という面においてもキッカー・ターゲット両面でその能力を発揮してくれることだろう。またFWの物量改善もGood。交代出場の佐藤・金園で昨年甲府がいくつ勝ち点を積み上げた事か。

一方で何度目かの小屋松・仙頭という既存の"個"が抜けた穴がどこまで塞がるか問題。荒木はベンチスタートが多く真にフル稼働したシーズンがないのがネック。中川は昨年序盤にJ2でも活躍を見せたが、こちらもマリノス移籍以降はチャンピオンチームということもあり出場機会に恵まれず。共にそのポテンシャルを遺憾なく発揮できる土壌が整っているのかいささか不安。ほんと共にJ2ベストイレブン級だったからねえ…

また、ここまで触れてこなかったが、GKについても総合力自体はJ2屈指と言えるが反面絶対的守護神は不足している。中村航輔にキムスンギュを加える柏の真似をせよとは言わないが、セランテス欲しかったなあセランテス。

チームとして機能しているなんてのは当然。「コイツ1人居るだけで勝ち点10は変わってくる」みたいな選手がどれだけ居るかどうか。0を1に、1を3に、その積み上げの差が年間順位表とPOでの一発勝負でより表れやすいのがJ2なのだから……

 

各媒体で『大型補強』なんて文言を見かけるが、これのどこが大型補強なのか教えて欲しい。確かに2016年は抜けた枚数が多かった反面、菅野・牟田・エスクデロ・堀米ら多数J1級の選手をJ1のクラブから引っこ抜くという事をやってのけた。だが少なくとも今回は違う。抜けた枚数分大量に獲った『大量補強』であって、大型ではない。

 

 

膨らんだ期待がしぼまぬ事を祈る新スタジアム初年度

とはいえ、「競争力のあるチーム水準を定めていき、そのためのチーム人件費を確保する。新加入選手たちを見ていただいて、その水準が上がっていると感じていただければ」と社長が語るなど、やはり新スタジアムによる各収入増加も見込んでチーム人件費は過去記事でも推測した通り増額されているようだ。

 

しかし、ここまで「物足りない」という論評で語っているように、その増額した予算では足りなかったのか。今冬のメルカートで2019年シーズンの課題を解決したと評価するまでには至らなかった。

 

終わった事は仕方ない。こうなった以上は指揮官の腕前次第。だが、またもや新人監督である。

信憑性はともかく、プチ炎上してた件のスポーツ新聞記者のnote記事によると、中田氏自身契約更新をするつもりはなかったよう。とはいえ結果としてクラブが契約更新をせず實好新体制を選択したのは紛れもない事実。中田氏が直面した物理的な課題が解決せぬままに、就任1年目から昇格というタスクに挑まなければならないというのは酷な気もするがどう乗り越えるのか。

 

 

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2月9日開催のこけら落としマッチは前売完売。年間パスも「亀岡市民ら新規の申し込みが増え、昨年の同時期と比べ約1・5倍増と好調な売れ行き」と、ここまでは新スタジアムによる恩恵を感じる順調な船出。クラブの命運がかかっており、せめて及第点はたたき出してほしいのが本音。

 

今のところ、報道から判断する分に昨年同様に攻→守の部分でウィークポイントを消しきれていない様子。結果として守→攻での良さも出せずジリ貧になっていったのが昨年後半戦の失速の要因。ある種の妥協と選手の組み合わせで解決を図れれば、昇格争いには絡めるだけの戦力は有しているだけに早く答えにたどり着きたい。

 

こけら落としマッチで対戦するは昨年見事成功を収めたロティーセレッソ。練習試合の結果こそ振るわないものの、シーズンが始まれば間違いなく昨年同様手堅く勝ち点を積んでいく事は間違いない実力者。

(塩試合になる可能性も高いが)キャンプでの仕上がりを測るには格好の相手。この試合でどういう試合を演じるかがそのままシーズンの結果に直結しそうな予感です。

 

 

ここまで厳しめに書いたけど、わざわざこのチームを選んだ選手の皆を応援するほかないので。期待しています。頼むよ!

(順位予想は別でやる)