+1 プラスワン

誤算の新スタジアム初年度

 

53809人。

この数字は、2月のリーグ開幕以降から11月21日に行われた徳島戦までに、サンガスタジアムbyKYOCERAへ詰めかけた観客動員数である。

 

ここまで京都サンガのホームゲームが17試合。無観客試合2試合を除けば15試合なので、平均入場者数は3587人。

国内の他事例から云えば、新スタジアムへ移転したJリーグクラブは概ね観客動員数約150%増を記録しているが、京都については現時点で昨年度比55%減に留まる。これを誤算というほかにどう表す事ができるのか。

 

新型コロナウイルス関連感染症の影響を色濃く受ける形となったスタジアム初年度を(終わってないけど)振り返る。

 

 

 

反転のチャンスから衰退の危機に

ファン待望の新スタジアムはクラブにとっても悲願のアイテムであった。老朽化が激しく、観戦環境の劣悪な西京極から最新鋭の設備が整ったフットボールスタジアムへの移転は入場料をはじめとする収入の拡大に大きく寄与する。

事実、クラブは新スタジアム効果による収入増加を見込んでチーム人件費を増額。

「競争力のあるチーム水準を定めていき、そのためのチーム人件費を確保する。新加入選手たちを見ていただいて、その水準が上がっていると感じていただければ」

対して、年間パス販売数も前年度比170%と好循環が見込めていた。

 

しかし、コロナ禍によりホーム開幕戦を迎える事無くリーグ戦が一時中断。再開後も入場制限や平日開催の増加など物理的制約が多数あり、前述の通り観客動員数は前年度比55%減となっている。

計数から割り出すに、前年度の客単価は1201円ほど(入場料収入約198百万円÷入場者数164,845人=約1201)。最も価格の低かったサンガサポータ―席のファンクラブ会員(大人)向け前売価格の1200円とニアピンの数字。

そこで、今期の客単価をホームゴール裏指定席(大人)の2100円と予想して減収額を計算すると、当初の平均入場者数目標9千人-3587人=5427人、5427人×2100円で1試合あたり予算対比11百万円の減収。試合数21を掛ければ年間で予算対比231百万円の減収と、あくまで単純計算による予想であるがダメージは甚大だ。

 

また、社会的距離確保と属性把握の為に全席を指定席化する必要があり、販売ペースが好調だった年間パスを一律返戻することに。返戻による諸コストの発生だけでなく、「年間パスを初めに買って後はスタジアムへ行くだけ」という行動の変容と、依然収束しない感染状況により、既存客のスタジアム観戦離れが中長期的に進む恐れは非常に高い。

 

なにより、新スタジアム初年度は後にも先にも2020年のこの1年のみ。時が経てば経つほど新鮮味は薄れゆく。新規層開拓へ打ってつけの年を浪費し、また多くの入場者が詰めかける事で今後の試合運営へ新たな知見を手に入れられたはずが、その機会すら失ってしまった。

 

飛躍の為のハードを手にした年にまさかの空転。それどころかこれまで積み上げてきたわずかな資産すらも失う可能性が出てきてしまった。今後のクラブ経営とチーム強化に於いて非常に大きな痛手であることは間違いなく、これは悪夢ではなく受け止めなければならない現実である。

 

 

 

立派なハードに対してソフトは…?

他方で、こういう見方もできる。コロナ禍とはいえ、打ち手があまりにも少なすぎやしないかと。

 

例えば、ガンバ大阪名古屋グランパス

近年様々な施策でクラブ強化に乗り出す2クラブは、毎年恒例の集客イベントを今期も実施。体力があるからこそと成しえる業だと言えるかもしれないが、彼らは批判や逆境を恐れず成し遂げている。ガンバについては入場制限が再緩和後の開催だった事もあり、入場者数16,183人とコロナ禍において十分大入りと言える入場者数を記録した。

 

 

 

今季については鬼の過密日程で興行を成立させる事が最優先で正直このような大々的なプロモーションを行うのは現実的ではない。フロントスタッフの負担は、口だけとは言え重々承知しているつもり。この状況下で今の京都に同じ水準を求めるのはあまりにも酷である。

 

しかし、西京極ではできなかった事がサンガスタジアムではできるはず。

例えばメンバー発表。例えば試合中の手拍子喚起。要所要所でもう少しバージョンアップはできるのでは?端的に言えば「ダサい」と感じてしまう。

器が綺麗になっても、盛られる料理が変わらなければ興ざめである。

そしてこれはピッチ内の事象についても共通して言える事……

 

 

 

 

2年目への準備

今年についてはもう仕方がない。割り切るほかない。

問題は来期である。どれだけ制約が解かれるかはわからないが、反転へ向けて積極的に打ち出していくべきだ。例えば、スポンサーと連携した来場者特典配布など積極的なプロモーションによる来場誘致強化や、スタジアムWi-Fiの活用をはじめJリーグID取得の更なる促進によるCRM強化など。

 

なんと言っても今の今まで屋外スポーツ会場でクラスター感染が発生した事例が見受けられないのは大きい。新型コロナウイルスの流行によって、時として人と人との繋がりを断つ事が求められる中で、スタジアムは社会的距離を確保しながら交流できる場として機能するのではないか?

そうした仮説の元、攻めのアプローチに打って出て良いと思う。今だからこそニーズも強いのでは。

これまで売りにしてきたスタジアム内の安全性に、このコロナ禍で求められる安全性をエビデンスと共に世間へ広く提示する事ができれば、京都というよりリーグ全体の話になるが、成長曲線を元の設計図通りに近づけていく事は可能だろう。今だからこそ、攻め倒して欲しい。

 

 

併せて、今回は敢えて触れなかったがスタジアム管理事業のテコ入れも急務だ。

簡素なフードコートでお茶を濁しているが、元々は複数のテナントが入居するはずであった所。開業時点でハッキリ言って「大コケ」状態な上に、唯一入っている大河ドラマ館も期間限定の入居かつこのコロナ禍の影響をモロに受けており、地域のランドマークとして機能させるには立て直しが必須である。

 

 

 

最後に、想像で落書きを。

最初の項で書いたように億単位の入場料収入の減収をはじめ、今期の赤字着地はほぼ確定で、額によっては平常時であればJ1ライセンスはく奪となる債務超過に陥る可能性があるが、クラブから危機感は全く感じられない。

ベガルタ仙台サガン鳥栖の危機的状況が報じられているが、責任企業を持たない地方クラブのみならず、鹿島や浦和のようなビッグクラブでもクラウドファンディングの実施など収入増加・赤字幅圧縮へあらゆる手を講じている。

そんな中で京都はクラウドファンディング等の施策に手をつけず、クラブから経営に関するオフィシャルな声明も一切ない。

 

かかる中、かつて取締役も務めた加藤久氏が10年ぶりに復帰。氏の功罪については言及を避けるが、なりふり構わない大型補強で財務状態をおかしくした張本人がこのタイミングで強化育成本部長という要職に就けたのは、氏の事を気に入っているスポンサー筋の力が無ければありえないと言える。

更に、2015年末に名誉会長自ら交渉へ出向くも破談に終わったチョウキジェ氏の監督招聘が決定的と報じられており、これらを勘案すれば、おそらく経営についてはメインスポンサーないしメインスポンサーを中心とした数社による「手厚い支援」によって心配する必要は皆無であり、それどころかJ1からの降格クラブなしで戦う2021年シーズンに向けて(相対的に見て)巨額の資本投下があるのかもしれない。

 

経営危機が囁かれるクラブが複数ある中で大きな財布を持っている事は大変ありがたいのだが、この親方日の丸体質だからこそチームもクラブも貧弱とも…というのはこのコロナ禍では贅沢すぎる悩みなのだろうか。

 

最終的にお尻を拭いてくれる存在がいるので努力しなくてもなんとかなる~という歴史が繰り返されてしまった場合、このスタジアムは白い象になってしまうだろう。それだけは避けてほしい。

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