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京都サンガF.C. 昇格を手繰り寄せた5つの要因+雑感

 

いま、千葉からの帰り道。新幹線の中で思いのままに指を走らせてみる。

11年間もがき続けたクラブが一つの殻を破れた要因はなんだったのか? 5つのキーポイントから掘り下げる。

 

 

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1 曺監督をはじめとする充実のコーチングスタッフ

今季の京都を変えた存在は、間違いなく新たに就任した監督:曺貴裁である。過去J2で指揮を執った3季全てで昇格を成し遂げた指揮官は、自身のパワーハラスメント行為を発端に職を失った、文字通り失意のどん底に落ちた状態から不死鳥のごとく舞い戻り、4度目のJ2の戦いでも見事チームを変える事に成功した。

 

と、こう書けばまるで感動秘話のようであるが、当人が湘南時代に振るった愚行についてはずっとのしかかる十字架で、決して昇華できるものではない。ハラスメントは違法行為である。一方で、曺監督が京都サンガF.C.というチームそしてクラブを変えた事は事実であり、その根底には流経大での貴重な時間を含め、ここに至るまでで指導方法を見つめなおし、まずは己自身を変革させたのではないだろうか。若手からベテランまで各世代の選手が監督への信頼を語っており、攻守の切り替えの早さ・高い位置でのボール奪取・素早い攻撃を信条に今季の京都は一体感を持ってタフに戦い抜いてきた。チームの運動量や攻守の切り替えの速度は見るからに前年を上回り、大エースであるウタカも前線からの激しいボール奪取を厭わない。

なお、細部にわたる解説は是非こちらのとめさんのエントリーを参照していただきたい。

 

その戦いぶりはデータにも表れており、決して守備が上手いチームではないものの、相手陣内深くからボールを奪いにかかる積極的な姿勢と、例えゴール前へ侵入されても最後の最後まで体を張った守備とが功を奏して、ここまでリーグ最少の31失点。全24勝の内1点差でモノにした試合は13試合。無失点試合はなんと20試合を誇る。フクダ電子アリーナで昇格を決めたのも無失点で乗り切ったからであった。

実際にピッチ内においてこれほどまでに京都の選手が汗をかき、規律を守り続ける姿というのはあまり見た事がない。求心力と指導力の高さが改めて伺い知れるだろう。

 

また、氏をサポートするスタッフの仕事ぶりも無視することはできない。ある種、"お目付け役"でもあった長澤徹ヘッドコーチを筆頭に、杉山コーチ・石川コーチ・若宮コーチ、そして中田一三体制からチームを支える富永GKコーチが脇を支える布陣は監督を含めてS級ライセンス保持者が延べ4名とかなりの力の入れよう。ハードワークが当たり前のチームながらケガ人も最小限に留まり、若宮フィジカルコーチをはじめとするメディカル系の人材も含めチームスタッフ全員がワンチームで曺貴裁体制を支えた。

 

少し話題が変わるが、こうして書いてみると、攻守の切り替えの早さ/構えるよりも高い位置でのボール奪取/素早い攻撃/多士済々のコーチ陣/選手に慕われる指揮官という構図は、2011~2013シーズンに指揮を執った大木武監督(現ロアッソ熊本監督)のチームと似通っていることに改めて気づかされる。ポゼッションやパスサッカーといった曖昧な表現で括られてしまうことも多かったが、大木サッカーの本質はそこではない。事実として京都時代のゴールシーンも大半はボールを奪ってからの素早いカウンターが多かった。天皇杯でアップセットを演じた鹿島戦・マリノス戦の得点シーンはその最たる例と言えるだろう。

第1列の選手(FW)がボールを狩りに行き、その基準点に連動して2列目3列目も高い位置を取る『ボールを奪う為の守備』がチーム戦術の前提にあり、選手たちが密集を作ってショートパスを多用しながら連動する『クローズ』などと呼ばれたスタイルも、小さな二等辺三角形状の位置関係を作る事で小気味よくボールを前進させる事と同時に奪われたとしても直ぐにプレスを開始してボールを奪い返せるリスクマネジメントの為。クロップ監督率いるドルトムントが躍進を見せて、香川真司の活躍と共に「ゲーゲンプレス」なるワードが日本のサッカー界に流れ込んできだした頃よりずっと前から採用していたある種非常識でリスキーだが理にかなったコンセプト。体力的にしんどいし頭も使うけれども楽しくプレーができる。まさに選手自身を魅了していたわけだ。

結局、'13年シーズンもリーグ戦は3位、2年続けて昇格プレーオフで敗退してJ1復帰はならず。大木京都は3年で幕を降ろすことになるのだが、あのときの選手たちからは「毎日の練習に行くのが楽しかった」「あのチームでJ1に行きたかった」と、惜しむような、悔やむような声を聞くことがある。

 

もっと言えば、スタンスも似通っている。

大木武「型がないとダメ。チームじゃなくなる」「マクロは変えずミクロを変える。日々の練習でそのヒントを与えている」と語れば、曺貴裁は「秩序の中のカオス」「秩序の中の無秩序」を求める。

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大木武が「一度見たらもう一度見たくなるサッカー」をテーマに独自のスタイルを体現すれば、湘南時代も縦の美学を植え付けた曺貴裁もこれまた「スポーツで日常が動く街ではないかもしれない。だからこそ、サッカーを見て『面白いやん』『感動したわ』と感じてもらえるポテンシャルがある。面白い試合をして、京都の地で確固たるフットボールを築きたいという思いで引き受けた」と勝ち負け以前のスタイル構築に着手し、エンターテインメントとして価値あるものにすべく今季体現してきた。(これについては中田一三監督も同様だが)

 

実は2012年に大木京都のJ1昇格を阻んだ湘南の監督こそが曺貴裁氏。あの時、未完に終わった二兎を追う果てしない旅路に1つのピリオドを打つのが曺貴裁監督のチームである事に、何かただならぬ因果を感じて仕方がない。

 

 

 

2 現場と強化担当の一体感

どれだけ監督が優秀でも、クラブ全体が一枚岩でなければ勝利することは難しい。そのことを身をもって教え続けてくれた"しくじり先生"こそが京都である。

 

ある時は強化責任者が不在のままシーズンを戦い、編成の失敗で低迷。ある時は外部から招聘した強化責任者の暴走を止められず低迷。目まぐるしくトップが入れ替わる。ないしは不在になる事で定まった評価基準を持たず、故に人選を見誤るか、せっかく良い監督が訪れても正しく評価できないのでピッチ外の政争を起因にいなくなってしまう。実に日本的。ムラ社会とでもいえばよいだろうか。

優秀な監督が仕事をしやすい環境を整えるには、その背中を守る存在が明確でなければならない。

 

だが今季の京都は違った。曺監督には加藤久強化育成本部長という明確なバックが居た。

加藤久氏は昨年10月に10年ぶりに強化育成本部長としてクラブに復帰。オールドファンならば氏がそもそも日本サッカー界においてどんな立ち位置に居たかご存じかと思うが、京都的には2007~2010年途中、つまりは前回J1昇格~J2降格を経験した時期の専務取締役(実質GM)かつ監督で、曺監督から見て早稲田大学サッカー部の大先輩にあたる人物である。

J2に降格させた監督がまた戻ってくるパターン自体が中々無い事ではあると思うが、重ねて全権監督の立場で多額のチーム人件費を費やし債務超過に陥る程にまでクラブの財政を悪化させて失脚した人間が再びフロント上層部に舞い戻ってくるなど、本来は99.99999%考えられない話で異例中の異例。でも氏は帰ってきた。コレは本気で曺監督を招聘したいクラブの姿勢が表れたものであり、「メインスポンサーである京セラもこのプロジェクトを十二分に理解している」というメッセージの表れでもあった。(誰が糸を引いたのかがまだ謎なのだけど…)

「その街とクラブを盛り上げられるところに行きたかった。伊藤(雅章)社長と(強化育成本部長の)加藤久さんにも、そういう土壌をつくってほしいと熱心に言ってもらった」

 

後見人として加藤本部長がクラブに復帰する事も、パワハラ処分明け間もない曺監督を招聘する事も、大変リスキーであったと思う。クラブ内でも、また主要スポンサーからも反対の声だってあった事だろう。だが京都は劇薬を口にする事を選び、ステークホルダーも覚悟を決めた。そして短期的には成功を収める事ができた。

常に愚行が繰り返されてきた京都の歴史の中で現場とフロントとが一枚岩となったこの関係と成果というのは極めて珍しい現象である。それこそ大木武監督の背中を祖母井GMが守っていた頃しか思い浮かばない。

 

付け加えると、おそらく加藤氏は後見人としての役割が主で、シーズン前の新体制会見において山道強化部長がメインで説明を行っている点と、山道強化部長がパイプを持っている浦和から今季3人の選手が加入(福島・武富・荻原)している点から、あくまで強化部門の長としては2019年末より入閣した山道強化部長が主導権を握り続けており、これまであったようなフロント内部での闘争のようなものは無く良好な関係が構築できているものと…希望的観測込みで憶測している。

少なくとも曺監督を招聘した人物が居なくなる事で曺監督自身の立場が揺らぐという事態は当分は起こり得ないし(逆に曺監督に何かがあった時の候補は……?)、就任にあたって松田・武富などかつての教え子や長澤ヘッドコーチのような気心知れた存在を腹心に据えられたあたり、今オフについても監督のリクエストが通りやすく、手腕をより発揮しやすい環境が整えられると言えるだろう。

 

 

 

3 若手選手の台頭

焦点をピッチ内へ戻す。"攻守の切り替えの早さ・高い位置でのボール奪取・素早い攻撃"というのが特色なだけに、曺監督のチームではアスリート能力の高さをより求められがちであり、スピードやスタミナ面で秀でた若手にもチャンスは多い。

加えて、京都は約15年ほど前から"育成型クラブ"を目標に掲げて育成組織の充実を図ってきたことや、クラブの財政的な事情(=他クラブから高額のサラリーを費やして選手を引き抜きづらい)も相まって、高卒・大卒・育成組織上がりの若手選手が常に一定の割合を占めるチーム編成が2011年のJ2生活以降続いている。

 

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結果的にはこの2つの要素が上手くハマった。今期の基本布陣は後ろから1-4-3-3のフォーメーション。図の中において星表示のある選手が育成組織出身の選手で、丸表示がある選手は今シーズン中にJリーグ通算100試合出場を達成した選手。丸表示のない若原・川﨑・荻原は開幕から通年を通じてスタメンに定着した事がなかった為、まだ100試合にも満たないことを加味すると、ウタカ・バイスの両外国人とチームの象徴的存在と言える宮吉の3名以外は経験が浅く発展途上にあるメンバーが主力となって戦ってきたことがよくわかる。(その為か4戦4敗を喫してしまった磐田・長崎と比較すると個の力で劣る場面も…)

中でも育成組織出身の選手は若原(4年目)・麻田(5年目)・川﨑(2年目)・福岡(3年目)・宮吉(プロ14年目、高卒11年目)の5名がほぼ常時スターティングメンバーに名を連ね、出場時間がかなり伸びている。残念ながら若原の負傷離脱により記録の更新は極めて難しくなったが、これは京都の歴史の中でも最長クラスである。

育成組織(U15・U18)出身選手の公式戦出場時間記録

2011年=8,567分

2012年=6,212分

2013年=5,880分

2014年=5,200分

2015年=14,560分

2016年=4,534分
2017年=4,301分

2018年=3,149分
2019年=5,113分

2020年=7,256分

2021年=13,280分(39節終了時点)

 

また、荒木・飯田といった昨年他クラブから獲得した選手たちも以前よりプレーが洗練されており、曺監督の求めるスタイルと選手編成が就任1年目ながら比較的上手くマッチした。

というより、2019年オフの時点でこうなる事を予想して編成を組んでいたかのような……まさかね。

 

 

 

4 コロナ禍の変則ルール

今度は外部要因へ目を向ける。正直なところ、『降格チームなし』『交代5人制』のコロナ禍における特別措置の恩恵は大きかった。

 

まずは降格チームなしについて。残留争い真っ只中のチームにとっては降格枠が4つも存在する為胃が痛くて痛くて仕方ないだろうが、その分J2上位クラブにとってJ1からのビックリ降格クラブが無かった事は昇格候補のクラブにとって追い風だった。

特に今季の京都は磐田・長崎・甲府の他上位クラブに対して6試合で1分5敗と惨憺たる結果となっており、中位~下位からの取りこぼしは少ないが自動昇格候補との直接対決では勝ち点を献上してしまっている構図を考えると、タレント揃いのクラブが降格してこなかった事は助かったというほかない。(補足しておくと天皇杯ではJ1の柏に勝利している)

 

また交代5人制ルールの継続も大きかった。終盤までプレー強度を落とすことなくクオリティを維持するにあたって戦力をつぎ込めるこのルールは京都ベンチにとってのフォロー。またJ2リーグの中においては間違いなく戦力が整っている部類のチームなので、ベンチも含めた総合力で相手を殴ってしまうような勝ち方もできた。アウェイの地ではこじ開けられなかったゴールを交代カードを駆使して最後の最後に陥落させたホーム琉球戦後半ATの決勝点はその象徴と言えるだろう。

 

 

 

5 サンガスタジアム by KYOCERA

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触れずには締めくくれないだろう。琉球戦の決勝点も、大宮戦の後半AT6分の決勝点も、このスタジアムだからこそ生まれたのではないか。

https://twitter.com/J_League/status/1455873644278681614?s=20

https://twitter.com/J_League/status/1455873644278681614?s=20

 

實好 前監督が「パワースポット」と評し、曺監督が「まるで欧州のよう」と感嘆の声をあげるクラブ悲願のフットボールスタジアムは、文字通りホームアドバンテージをもたらしている。データを見てみると2020年シーズンが12勝4分5敗。今季は13勝5分2敗。通算25勝9分7敗で勝率は6割強を誇り、8位に終わった20年を計算に入れても平均勝ち点2.04と自動昇格ペースの勝ち点を獲得していることから、如何に効果が絶大か。

屋根に反響して轟き渡る手拍子や、スタンドとの距離が近づき英プレミアリーグのような雰囲気もモチベーション上大きいのかもしれないが、老朽化の激しい西京極と比較してロッカールームなど諸室の環境が大幅に改善された事も大きな効果。また国内初の自由視点カメラによる分析サービスが整備されたことで、戦術面でも大きなサポートを得られている。

このシステムでは映像の遅れもなくリアルタイムに自由視点カメラによる多角度の映像を確認し、タグ付けすることができます。自チームおよび対戦チームの戦術分析をハーフタイムに多角度の映像を用いて説明できるため、現場の指導スタッフからも大変喜ばれています。

 

また、新スタジアムはクラブ経営にとっても大きなプラスの効果をもたらしている。過去にも当ブログで駄文をしたためたが、2020年度決算でコロナ禍にありながらサンガは増収増益で着地。サンガスタジアム移転を契機にスタジアム計画のステークホルダーや亀岡以北の府内優良企業を中心に新規大口スポンサーも増加しており、金策に走る他クラブを他所目に現場はピッチ内の戦いに集中する事ができた。

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2020年スポンサー一覧

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2021年10月末時点スポンサー一覧

 

当然ながら編成に与えた影響も大きい。新スタジアム初年度の2020年シーズン前にウタカ・バイス森脇良太・荒木や飯田ら大量補強に動いていた京都にとっては、コロナ禍によって外国人助っ人を国外クラブから獲得するのがリスキーとなった状態でも慌てず乗り切れるだけの素地があった。松田ら曺監督のかつての教え子を中心に監督のリクエストに応えるピンポイントの補強でチームを組成。これも元を辿れば「新スタジアム初年度で結果を残す為には大型補強」「新スタジアムで増収が想定できるからJ1クラブへの流出(小屋松・仙頭ら)の穴埋めへ資金を投入できる」「増収増益で着地できたからリクエストに応えられる」と、直近2年間のストーブリーグにおけるサンガスタジアムの存在が物心両面で大きかったからだ。

 

更に言えば日本人選手にとっても当然日々の生活がある。単身赴任という選択肢も当然あるが、パートナーや子供達の事を考えてコロナ禍の中で生活を大きく変えたくはないとより思うのも自然な流れ。そんな中で、最新鋭の日本最高峰のスタジアムでプレーができるというアドバンテージは、口説き文句あるいは上のカテゴリーからの誘いを断る理由の1つにはなったのかもしれない。

 

まあ、いずれにせよそんな理屈抜きにサンガスタジアムは素晴らしく美しくて最高のホームスタジアム。これが力にならずして何になる。

 

 

 

 

 

他にも挙げればキリがないが、どれかが欠けていれば成し得なかった。全てがかみ合ったからこそ乗り越えられた。この11年間を振り返ってみて、今季は選手・スタッフ・フロント・サポーター・スポンサーら京都サンガに関わる全ての人が同じ方向を向いて戦えた極めて珍しいシーズンであった。

 

色んな事があった。楽しい思い出もあった。それ以上に辛く苦しい思い出もあった。信じられない事が耳に入ることもあった。ここでは言えない事もあるし、噂話だってある。なにより全ての景色を見た訳ではなくて、いつだって真実は当事者にしかわからない。ただ、自分が色々な所で見た限られた景色だけでも1つ1つを思い出すと感情が止まらない。

 

BMWでの水谷の魂のセーブ。弘堅の涙。サッカーマガジンを探しに書店巡りする開幕前。短い時間で歓喜をもたらす原一樹中村充孝のブレイク。雨中の甲府戦。駒井のヘディングがバーに阻まれる瞬間。プレーオフ。明らかに硬い選手達とネットに刺さる森島のFK。涙する安藤と駒井。開幕万博、安藤のボレー。山瀬。そして久保裕也。岡山戦、試合後のバス待ちで呼ばれる大木さん。「進退なら会社が判断する俺は辞めない」「本気でやっている」「昇格させる」大木さんらしい嘘のない言葉、覚悟。ゴールを決めた安藤と頭を抱え悔しがる中村祐也。時が止まった工藤のループ。7連勝。プレーオフ長崎戦。バス待ち。いくつものファインセーブ。骨折しながら戦い抜いてくれた横谷。項垂れるスンフン。大木体制の終焉。

愉快なグラサン爺ちゃんとエリカ夫人。自陣ゴール前で空振る比嘉さん。石櫃のFK。変態ゴールマシーン大黒。フロントを憂う川勝さんと慕われる森下さん。舞洲でのステップアップリーグ優勝。

暴走する社長。チラつくJ3長良川での居残り。和田、今井体制の終焉。怒られるフェホと9試合連続引き分け。大黒のゴールと、中山博貴と、引き抜かれていく若手達。

セレッソ戦の勝利。菅沼の激走。久々のプレーオフと涙と崩壊劇。布部体制、再びチラつくJ3。ツインタワー。意見交換会Jユースカップ優勝という希望と目の前の地獄。わかりきっていた崩壊。落ちひん発言。J2最下位で現実味増す降格。J3生活へ半ば覚悟を決めた夏場の奮闘と救世主達。エンブレムを叩いて見せた長良川での庄司。ロペス、カイオ、ジュニーニョ、金久保たち。

監督不在の記者会見、波乱だらけの出会い。まさかのポジショナルプレー。どこからでも点が取れる気しかしないサッカー。一美のパワフルさ。金久保のスルー。芸術的な安藤本多のCBと両翼の黒木石櫃、小屋松仙頭。美しすぎる大宮戦の1点目。8年ぶりの首位。相次ぐ怪我人。下降する順位。西京極ラスト、心震えた仙頭のゴール。日立台、13-1、オルンガの衝撃と最後まで貫いた攻撃的な姿勢。その美しいマインドと一三の叫び、太く短い愉快な旅の終焉。

待ちに待った新スタジアム。こけら落とし。間が悪く襲うコロナ禍。

 

そして今年。

 

 

挙げなかった思い出も含めて、見てきた景色を思い出すと何故だか目頭が熱くなる。

色んな人がクラブを去った。本当は皆とそれぞれ喜び合いたかった。例えその旅路がどんな結末になろうとも、ひとまずは昇格という1つの大きな成果を収めたかった。

 

大木武のサッカーをもっと多くの人に見てほしかった。勝負弱いというレッテルが貼られてしまって申し訳なかった。最高の人に、そのサッカーに賛辞の声が集まってほしかった 正当な評価が与えられてほしかった。定期的にこの動画を見ては思い返して涙してしまう。(だからこそ、頑張れロアッソ熊本)

ヴァンフォーレ甲府 大木監督の挨拶 - ニコニコ動画

 

面白味は少ないけど堅実で、J3降格危機から立て直した石丸のチームで勝ちたかった。勝ちきりかった。あんな別れ方だけはしてほしくなかった。

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本当に愉快で最高な人間で、やってるサッカーも面白くて、13-1なんてネタ要素がまとわりついてしまうのが残念すぎる中田一三という男とJ1も旅してみたかった。ベンゲルの様なあの人が、京都というクラブを、街を、取り巻く人々をどう変えていくのかもっともっと見ていたかった。

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安藤BAはセレッソと松本でJ1でプレーできた。工藤や酒井たちも個人昇格できた。でも中山博貴や原、テソンたちはさせてあげられなかった。到達できぬままスパイクを脱ぐ事を決意した。あるいはせざるを得なかった。

 

色んな望みが叶わなかった。このクラブをJ1に上げると意気込み、そして引き抜かれていく若手選手達。このクラブを変えようとして、大きな壁にぶち当たり離れる事を選んだ人達。その時々で色んな人と申し訳ない別れ方をした。酷い最後通牒を送りつけたこともあった。スクラップ&ビルドなんて言葉すら使うのが申し訳ない、時に自傷行為だらけの日々だった。一方で、本多や一三監督とは顔も見たくないあの人が働かなければ出会えなかった。かくも人生は難しい。サッカーとは難しい。

 

1つだけ確かなことは、今日のこの歓喜は皆で手にしたもの。11年かけてやって来た事の積み重ねが1つ遅咲きの花を開花させたもの。この勝ち取った結果をもってして、離れ離れになった皆がそれぞれの現在地で何か報われるものがあるのならば、これほど嬉しいことはない。いや、きっと届いているはず。

 

最後に出されていた段幕、おそらくいつものULTRAS KYOTOが準備されたものだと思うけど、声を出してはいけないこの状況下で皆の心情を見事に代弁してくれていた。

来季はサンガスタジアム by KYOCERAに新しい風が吹き込んでくる。追い風か、凍てつく強風、逆風か。どうなるかはわからない。ただ今はまず喜びを噛み締め、分かち合おう。

この11年の間に京都サンガに関わった全ての人々よ、「ありがとう。本当にありがとう。心からありがとう。」

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◯本日の一曲

日向坂46/約束の卵 (公式ch、仕事してくれ〜)


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