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京都サンガのコミュニケーション不足 〜チェックインバトル優勝からユニフォーム品切れまで〜

 

目次

  • チェックインバトルとは
  • 3つの変化?
  • JリーグIDとファンベースの拡大
  • パートナーを増やす為の積極的なコミュニケーション

 

 

チェックインバトルとは

昨年のJ2リーグで、ひっそりと京都が1位に輝いたものの1つが"チェックインポイント"である。

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このチェックインポイントとは、Jリーグ公式アプリ上でスタジアム来場時に位置情報を活用して"チェックイン"を、またはDAZN視聴時に"リモートチェックイン"を実施した総数のことを指す。スタンプラリーのスタンプの数そのものと思ってもらえれば良い。そしてそのポイントの合計で競われたレースが"チェックインバトル"なのだ。

 

つまりは、単純な来場者数・視聴者数の合計ではなく、Jリーグアプリ所有者数×チェックイン率で測られる指標のこと。

 

昨年のJ2リーグにおける観客動員数ランキングを振り返ると、1位から順に新潟・松本・磐田・京都・山形・長崎…と続いているので、チェックインランキングと比較すると相関関係があると言える。

しかし、無観客試合や収容制限の影響も大きく、1位の新潟と京都とでは動員数に倍近い差があった。(新潟=228,452人 京都=109,239人)試合会場に足を運べずとも積み上げが可能なリモートチェックイン機能を勘案しても、かなりのハンディと言えそうだ。

 

ではなぜ動員数で劣る京都がチェックインバトルで1位を獲得することができたのだろうか。

 

 

 

3つの変化?

前述した様に、仕組み上"アプリのダウンロード数が多い"×"チェックイン頻度が高い"=チェックインポイントがより増加する図式となっている。(以下、ダウンロード=DL)

 

なので単純に考えればこの図式で数は増やしていけるものと思われる。

1.観客動員数(とDAZN視聴者数)を増加させる

2.来場した観客のJリーグアプリDL率を高める

3.DLしたユーザーには漏れなくチェックインさせる

 

1については、繰り返しになるが首位新潟との差こそあったもののJ2の中で4番目の動員数を誇った。

要因としてはチームの好調が大きな要因として考えられ、感染者の減少と収容制限の緩和+昇格争いが佳境を迎えた終盤戦は秋田戦の9900人を筆頭に多くの来場者を記録した。

おそらくではあるが、DAZNでの視聴者数についても12年ぶりのJ1復帰を決めた千葉戦(フクアリ)を筆頭に今季は多かったのではなかろうか。

 

 

2と3については、チェックイン・リモートチェックイン共に促進活動が目立った。

特にホームゲームでは毎試合プレゼント企画を実施し、『アプリ起動→チェックイン』を習慣化させるプロモーションを徹底した。

コロナ禍以前であれば、全クラブ共通でチェックインにて取得したポイントを招待チケットの抽選券として利用できたが、2020〜2021シーズンは観客誘致以前に安全な運営を心がける必要があり、Jリーグ本体も運用方法を模索。

京都もニンジン作戦以外に打ち手がなく、アプリの活用方法自体についてはまだまだこれから改善の余地はある。

 

 

ここまで、チェックインポイントについてひたすら語ってきたが、そもそも論としてチェックイン機能がユーザーにとって何のメリットがあるのだろうか?

 

売店のポイントや航空会社のマイルならば、貯まった分を商品購入や特典との交換で利用できる。スマホゲームのログインボーナスで得られたアイテムは、ゲームクリアへ向けて利用できる。

その一方でJリーグアプリユーザーがチェックインして得られる物は、前述の様にプレゼントの抽選権利だけになってしまっている。毎試合の様にプロモーション活動を行っており、筆者自身もチェックインが習慣化していたが、冷静に考えてみると動機付けにはいささか小さすぎるのではないか?

 

 

そこでもう少し本質的な部分を掘り下げてみる。

仮説を3つ提唱したい。

 

1つ目は「JリーグIDとアプリDLへの動機付け強化」

試合観戦チケットの購入にあたり、京都サンガ公式HP上において推奨されている方法がJリーグチケット(以下Jチケ)上での購入である。


ウェブ上で席の選択から購入・決済までを一貫して行えるほか、コロナ対策で全席指定席となった事でチケット購入時にJリーグ公式チケットサイト"Jリーグチケット"を利用するほか無い状態へと変化した。(※ユーザーは販売開始と共に希望の席を指定して購入しなければならず、クラブは万一の為に来場者の観戦位置を把握する必要がある)

 

Jリーグチケットで購入するにはJリーグIDの取得が必要で、Jリーグアプリの利用にもJリーグIDの取得が必要である。故にJリーグID取得者の増加はアプリDL数増加(=チェックインポイント積上げ)にも寄与する部分はあるかもしれない。

少なくとも、前提となるJリーグIDを取得"せざるを得ない"仕組みがコロナ禍の影響で強化されたのかもしれない。

 

 

2つ目に「来場者層の変化」

Jリーグでは、コロナ禍以前までは毎年実地にて観戦者調査を行なってきた。そのレポートから新潟と京都の来場者の年齢層を確認する。

 

直近3年間(2017〜2019)のデータで、50歳以上の回答者が占める割合について見ると、新潟53.9%・京都34.7%。18年で新潟44.4%・京都37.0%。17年で新潟43.5%・京都33.8%となっており、新潟の方が来場者の中でシニア世代の占める割合が大きい結果となっている。

 

つまりは元々シニア層の比率が新潟よりかは少ないと思われる京都だが、サンガスタジアム移転後の2年間で、JリーグIDやアプリへの親和性がより高いと考えられる若年層の来場者がさらに増加したのでは無いだろうか?

年齢層が高い=DL者が少ない と言うのはステレオタイプすぎるかもしれないが、西京極と比較して観戦環境の整った新スタジアムでの2年間は、平均年齢以下の来場者が増えた様に思うのだが…

 

 

3つ目に「デジタルマーケティングの体制が変化」

新スタジアム開業のタイミングで、かつてファジアーノ岡山の経営に携わってきた小川雅洋氏がJリーグ本体からサンガへと入社。現在は地域連携本部長兼マーケティング部長として辣腕を振るっている…はず。

小川雅洋 常務取締役 統括本部長の退任 並びにJリーグ クラブ経営アドバイザーに就任のお知らせ | ファジアーノ岡山 FAGIANO OKAYAMA

 

いわゆるサポーターズカンファレンスのような発表の場も無い為全くわからないが、影では前述のJリーグID等も絡めた様々なプロモーションが行われている可能性がある。少なくともSNS上でのチケットプロモーションは昨年発見する事ができた。いずれにせよ、長年の経営課題である"サッカークラブ経営におけるプロフェッショナル人材"を確保できた意義は大きい。

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(岡山からヘッドハンティングされて各Jクラブへ経営指南をされていた方が京都の様なクラブへ来るというのは、おそらくJ本体の意向もあったのでは無いだろうか。言ったもの勝ちだ。)

 

 

つまり、チェックインバトル優勝という目に見える事象から

1.コロナ禍と試合毎のプロモーションによってJリーグIDとアプリ取得及びチェックインへの動機付けが強化された

2.来場者の若返り

3.デジタルマーケティングの強化体制構築

京都サンガの内部環境と外部環境において上記3つのポジティブな変化が起きているのでは無いか?と推測したい

 

 

 

JリーグIDとファンベースの拡大

ユーザーにとってのチェックインの意義についてここまで述べた。

一方でJリーグクラブにとってのチェックイン・JリーグIDの取得増加は、マイル制度やポイント制度同様に何らかのインセンティブを与えながら顧客情報を収集し、事業活動に活かしていけるメリットが有る。

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参考)アクティブ率30%超、Jリーグアプリに隠されたデジタル戦略 | 日経クロステック(xTECH)

名古屋グランパス | 事例 | シナジーマーケティング株式会社 SynergyMarketing

グランパスの緻密な集客。 そもそもチケッティングってなんだ? | footballista | フットボリスタ

 

その為、Jリーグクラブ経営ガイドでも解説されている通り、JリーグID登録者はクラブ経営におけるKPIの一つと言える。

※KPI=目標達成へ進捗管理を行う為の定量的な指標みたいなもの。例えば「体重を5kg減らす」為に、「毎日腹筋30回×2セットを行う」←これ

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つまり、Jリーグクラブは経営活動の中で、JリーグIDの取得という山の裾野から様々な手段を通じて、ファンクラブ会員や年間チケット所有者へと登頂させて、山のサイズを横と縦にどんどん大きく成長させる事が求められている。

そうして大きくなった山は、比例して引力も強大なものとなり、クラブの経営基盤の安定と共に、地域への経済波及効果など"我が街にJリーグクラブがある意味"がよりくっきりはっきりするものと思われる。

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だからこそ、チェックインバトルの優勝という事象は、小さな出来事かもしれないが京都サンガにポジティブな変化が起きている兆しなのかもしれないのだ。

 

 

 

パートナーを増やす為の積極的なコミュニケーション

ただし、改善点と注意点は現在進行形で残っている。

 

一点目は「より効率的なID取得の促進」

ユースチームへのセレクション参加時など、多方面でJリーグ ID取得を義務付けする事は素晴らしい。しかしながら新スタジアム開業から2年が経過する中で、未だにスタジアムWi-Fiを活用したID取得の推進は実施されていない。ちなみに、近隣のパナソニックスタジアム吹田ではガンバ大阪がフリーWi-Fi利用シーンの中でJリーグID取得を促している。

スタジアム運営権を有しており、地域イベントへの貸出や独自事業(スタジアムツアーやeSports、コワーキングスペース等)で試合のない日も稼働させるのであれば、クラブと普段接点がない層へもアプローチが可能なはずなのでJ1復帰初年度の今年は必ずやってもらいたい項目の1つ。勿論JリーグIDという非対面接点の増加は勿論、対面でもどんどんと市民との接点を増やしていく事は必須である。

 

 

2点目に「愛着の表現方法の用意」
一般的に、企業や商品への愛着度が高まると同時に、客単価や購買頻度や他者への宣伝回数が向上すると言われている。

【ブランド戦略】顧客ロイヤルティとは?顧客を引き付けるマーケティング手法 | 株式会社Emotion Tech(エモーションテック)

 

最近の流行で言えば「推し活」なんてワードを耳にすることも多いのではないだろうか?

 

ここでようやくこの記事の本題に入るのだが、言いたいのは「鉄は熱いうちに打て」「ほとばしる熱を逃すことなくスムーズに誘導せよ」というお話

例えば、知人をスタジアム観戦へと招待したい年間チケットホルダーが、販売の仕組み上、自分の隣の席に知人・友人を招くことが難しくなっているとか

※12/21(火)更新 2022シーズンパスの販売について|京都サンガF.C.オフィシャルサイト

 

例えば、ファンクラブの会員ステータスが2つしか無く、金額と照らし合わせて中身もそう大差ないのでより上のカテゴリーへの誘導が効きづらいとか

ファンクラブ「SANGA CREW」|京都サンガF.C.オフィシャルサイト

 

例えば、受注販売と謳っていたはずのユニフォームが既に品切れで3月下旬頃の再販になるとか

【1/22:追加情報掲載】『2022ユニフォーム』販売のお知らせ|京都サンガF.C.オフィシャルサイト

 

コロナ禍で制約があり、どうしてもボトルネックが生まれるのはわかる。でも、山を大きくする千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。

こんな時こそ、仕組みを整えて自然と誘導する事が下手なクラブだからこそ、はっきりとした言葉で伝えたり、顧客の声に耳を傾けて妥協点を見出すべきなのだ。

 

 

またもや他クラブの話になるが、先日のファジアーノ岡山が開催した新体制発表会での北川社長のプレゼンは実に見事であった。20分ほどになるが、簡潔明快であっという間に終わっていた。

・現在地の共有・・・"過去"を振り返り、クラブのこれまでの歩みと"現在地"を説明

・目標への障壁・・・目標とする"未来"と妨げとなる壁(コロナ禍やIT企業のJ参入)を説明し、現状とのギャップを包み隠さない=正しい理解を得る

・実行プランと想いを伝える・・・クラブの方針をファンへ共有し、壁を乗り越える為に手を貸してほしいと呼び掛ける=理解者ではなく協力者を求める!

 

 

 

 

一方で京都というクラブは、このように方針がファン・サポーターに正しく共有される事が少ない。というかまず無い。

 

その為、ファン・サポーターには「傍観者」が多く、「理解者」や「協力者」が少ない。はっきり言ってしまえばリテラシーも低い。

なので昨年のような好成績を収めた年は上手くいくが、2017〜2018年の様に歯車が狂うと荒れる。途端に目も当てられなくなる。この事は観戦者調査におけるチームアイデンフィケーションの低さという客観的指標にも表れていると言える。

 

ユニフォームの件を例に挙げるならば、『完売しました』という事実だけを伝えても仕方がない。

「なぜ完売したのか?」「いつどこでなら手に入るのか?」「今後同様の事態が他のグッズやチケット販売等でも起きない確証があるのか?」をきちんと説明して理解を得るのが道理ではないか。

また、日頃からクラブとファンの間で関係が構築できていれば、簡単な状況説明で「仕方がない」と溜飲を下げる人も多かったかもしれない。しかし、リリースの隅から隅まで見渡しても、製造から販売まで、川上〜川下のどこで問題が発生したのか要因を読み解く事はできない。

 

逆もまた然りで、今回挙げたチェックインバトル優勝はクラブスタッフの努力の賜物なのかもしれないが、それを確かめる術は今のところ無い。仮に褒め称えられるような快挙だとしても、人知れず流れていく。これが京都サンガの現状である。

 

筆者がこのブログ上やTwitterアカウントにて「サポーターズカンファレンスを開催しろ」と言う背景にはコレがあるのだ。お詫びや言い訳は要らない、共感と協力を得る為には必要最小限の情報は開示せよと。なぜなら直接言わなければ伝わらない集団なのだから。

 

 

 

まもなく任期満了を迎える村井チェアマンは、経営ガイド上でもいつもの天日干しのエピソードを説く。

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昨年1年間、安藤BAをはじめとする広報担当の情報発信により、リアルタイムで現場の温度感をはっきりくっきりと感じ取る事ができた。

 

 

フロントサイドにおいても同様に、熱を伝播させていく為に積極的な情報開示と双方向性のあるコミュニケーションが求められる。(完)

 

 

 

 

 

 

参考)

Jリーグクラブ経営ガイド