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成長しないクラブ 〜2022年京都サンガレビューその③〜

 

年が明けてしまった。これで最後とする。

1つ目と2つ目はこちら。

 

 

 

 

はじめに

ここまではチームに対して焦点を置いて振り返りを行なった。

経営指標に関しての海路が無く全くデータがない為、自ずと主観的な内容にはなるが、最後は"強化"ではなく"普及""育成"に主眼を置き、クラブ全体を見通した振り返りを行いたい。

 

 

 

厚顔無恥

観客動員数はクラブの存在価値を測る上で重要なバロメータの1つである。

人気があるクラブだからこそ、人も金も更に集まる。賑わいが生まれることで経済的な波及効果も比例して大きくなる。

 

サンガスタジアム開業3年目となった昨年、コロナ感染防止による入場制限を課せられる事もなく、公式戦の平均入場者数は1万人を初めて突破した。

表面的な結果だけを見ると、通知表には4か5を付けても良いのかもしれない。しかしながら実態はどうだろうか?

 

磐田・鳥栖・湘南・札幌・柏…アウェイサポーターの来訪が相対的に少なかったクラブとの対戦では、休日開催ながら4桁止まり。福岡戦・清水戦なども無料招待企画やマッチスポンサーの社員動員などが無ければ8千人程度であっただろう。

4/29(金・祝)11:30終了【5/14(土)清水戦】先着4,000名様無料招待「スタジアムを”紫”で埋めつくせ!!」開催について | 京都サンガF.C.オフィシャルサイト

【8/6(土)柏戦】「夏休みはJリーグへ遊びに行こう!」抽選で1,000組2,000名様ご招待のお知らせ | 京都サンガF.C.オフィシャルサイト

 

 

またルヴァン杯グループリーグでは3千人前後の動員であり、やはり(平日開催を含め)どんな試合でも観戦しようとする京都のコア層は2〜3千人程度。実際のリーグ戦動員力としては、アウェイ客2千人程度を差し引きした8千人程度の実力であることが推測される。

一方、この3年間で顕著な若年層の新規来場者は引き続き目立った。特に女性サポーター。こうした変化はポジティブな成果である。(ただし、クラブからJリーグIDやファンクラブ会員に関する指標の開示はないので検証は不可能)

 

 

今季、京都を見守る中で最も筆者にとって衝撃的だったのが、集客プロモーションの少なさだった。

22年は12季ぶりの昇格かつサンガスタジアムのJ1初披露で、「遠征するなら京都戦」と決めていた他クラブのサポーターも多かっただろう。このご祝儀はそう続くものではない。周辺住民を含め、新スタジアムバブルの恩恵をただ自然体で受け止めるだけでは、将来的な低迷は避けられない。

 

そんな中で、京都は2022年に何をしたのだろう?

エクスキューズはある。コロナ禍という難しいシチュエーション。J1初年度で運営の不安定さ。周辺スペースが乏しくイベント開催が難しいスタジアム立地…。

しかし、同様のハンディを抱える中でも他クラブは様々な打ち手により、観戦体験の拡充を志していた。なぜ京都は動けなかったのだろうか。それとも動けた(can)のに動かなかった(do)のか。

 

著名人を呼ぶことが正解ではない。イベントをすれば良い訳ではない。

ただ、1試合で得られる価値をド真剣に高めていたか?不確実要素を取り除く仕組みづくりに腐心していたか?自分達が何を売っているのか理解して仕事をしていたか?

本当にサンガスタジアムbyKYOCERAを満員にしようと動けていたか?

 

象徴的なのは、スポーツ報知による特集記事。関西Jクラブ4者(当時)のコロナ禍での集客施策に関する特集Web記事が組まれた際のコントラストは極めて屈辱的であった。

コロナ禍以前から実施している。いや、そもそも京都に限らず何処も以前から実施しているホームタウンデー。そんな何の変哲もない事を、メディアからの取材に対して「やってますねん」と言ってしまう悲しさ。取り上げられて明らかに目立つ恥ずかしさたるや。本当に屈辱的すぎて思わずスマホを投げ付けてしまったのはここだけの話。

G大阪は音楽との融合 新たなファン層の開拓…関西4クラブに聞いた コロナ禍からの打開策 : スポーツ報知

 

C大阪は「誘い誘われ―」でファンコミュニティー拡大…関西4クラブに聞いた コロナ禍からの打開策 : スポーツ報知

 

J1神戸は商店街とコラボイベントで地域活性の一助に…関西4クラブに聞いた コロナ禍からの打開策 : スポーツ報知

 

J1京都は府内各地の「市民デー」開催 新スタジアムに来て!…関西4クラブに聞いた コロナ禍からの打開策 : スポーツ報知

>京都は20年から新本拠地とする亀岡市のサンガスタジアムbyKYOCERAの魅力をより広めるため、府内各地の「市民デー」を開催。26日の湘南戦は「亀岡市民デー」として、亀岡市民には優待価格でチケットを販売し、亀岡市のPRブースも設置する。京都市左京区出身のチョウ貴裁監督の下で12年ぶりのJ1を戦う中、改めて地域密着を軸にファン層拡大を図っている

 

"シャレン"でも同様で、他クラブが「自分達はどうすれば地域の課題解決に役立つことができるか?」と尽力する中で、ホームタウンデーと云う過去から実施している先進性も何もない平々凡々とした事象を「やっています」と堂々とアピールできる羞恥心の無さ。他所の事例を見て、意思決定層は本当に何も思わないのだろうか?

 

ただ単に90分間サッカーの試合を見せて終了。別にそのサッカーもスペクタクルなものではないし、勝っても負けても黙って手を振りながら周回しておしまい。そこに何かを整備しようという試みは10年前も今も一切無い。

一切無いから、習慣が生まれない。文化が生まれない。

試合後に選手とサポーターが喜び合う光景?(造り物にならぬ様コールリーダーが折角工夫を凝らしても)2017年の様に今より更に内容も結果も悪化すると、そもそも機会が無くなってまた途切れるのだろう。伝統が無い事こそが京都の伝統である。

 

負ける事、無様な試合をする事に対して、悔しいと思っても恥じらいを感じる事はない。あえて前のめりに倒れる事を選び、13-1で負けた柏戦然り。

しかし、サッカークラブとしての価値や存在意義を示せない事は、悔しい上にとてもとても恥ずかしい。事実、報知新聞の記事とシャレンアワードは本当に恥ずかしかった。そして悔しかった。

「みんな輝け」とスローガンに掲げながら、結局は何をどうすれば輝いた状態なのか、どうやって輝かせるのか。結局わからないままに1年が幕を閉じてしまった。

 

 

 

悪い意味で「一貫性のあるサッカー」

22年シーズンは若原・麻田・福岡・川﨑・山田・中野と6名のアカデミー卒選手がJ1デビューを果たした。育成型クラブを目指している(と口では言っている)京都が、いわゆる"個人昇格"ではなく、自クラブに在籍させながらJ1の舞台に選手を送り込めた事は素直に喜ばしい出来事であった。

 

一方でアカデミーの試合を観戦すると、そのサッカーの内容には暗澹たる気持ちにさせられる。今シーズンはアカデミーがトップチームと悪い意味で一貫性のあるサッカーをしていた。それくらい、いつ・どのチームを見ても、内容は非常に似通っていた。

前回の振り返りでトップチームのサッカーに対する疑問と不満を呈したが、より深刻な問題となったのは”意図的に”アカデミーでも同じサッカーを志向している点である

・ボールを持つ相手GKへ積極的に奪いに掛かるほどのプレス開始位置の高さ

・プレッシングの連動性は運動量で確保

・ボールホルダーと人への意識が強い

・ピンチの際は素早く戻って撤退守備

・拙いビルドアップ。故に自分達主導での攻撃の試行回数は少ない

・撤退守備でボールを奪った後は速攻を志向

・自ずとロングカウンターが増えて間伸びする。シュートまで行き着かない

・ボール保持時はサイドに人数を掛けて縦方向に突破

・突破しても最後のバイタルエリアの守備ブロックを突破する形を持たない

・故にシュートが打てない。あるいは打っても防がれる

・再現性の低い攻撃と、再現性の高い被決定機

 

これまでも運動量と選手個人のスキルに依存し、攻守に於いて組織の練度が低かったのがアカデミーの課題であった。特にアタッキングサードでの再現性のある攻撃に欠け、ボールを握る意識だけでスコアリングできないサッカーは、カテゴリーが上がるにつれてタレントの能力差で誤魔化す事もできなくなっていた。

(U-15(サンライズリーグ)では優勝できても、U-18(プレミアリーグ)で優勝はできない。完全に余談だが、成績は育成年代で真っ先に求めるものではないとは言え、2012年以降に育成に注力し出した鳥栖が王者になった事はもっと深刻に受け止めなければならない。)

 

しかし今季は、特にU-18は4-3-3の基本フォーメーションも含めてトップチームをオマージュしていた。

偶然に頼るサッカーをクラブ全体で志向した先には何が待っているのか。

 

おそらく、完全に乗り越えた者はかなりタフでスキルフルな選手になっている事だろう。イメージは鎌田大地や川﨑颯太。どんなタイプのチームでも関係なしに自分の持ち味を発揮できる選手に。

また、完全に乗り越えられなくても、大学進学後の活躍は期待できるかもしれない。こちらはいわゆる"脳筋"に染まる方向…。岩崎悠人や湯澤聖人や冨田公平タイプ。金明輝氏や川井氏の様な知恵を授けてくれる指導者と巡り会えばプロの世界での飛躍も望めるかもしれないが。

 

つまり、選手毎に明暗がより別れる。時たま荒波を乗り越えた逸材(川﨑クラス)が出てくる一方で、良いフットボーラーを生み出す確率は減っていくはず。誤解を恐れずに言えば、みんな仲良く合格点ラインではなくて、赤点も多いが数年に一度だけ「満点近くの逸材が居る!」みたいな。

高体連の様に一学年で数十人単位の選手を抱えていれば、当初の序列を崩す思わぬアウトサイダーが登場する可能性は高くなる。J1クラブのU-18カテゴリーで、ましてや1学年9人または10人の少数精鋭でチームを維持する京都で、そんな数打ちゃ当たるを実践するのが吉だとは微塵も思えない。

 

しかし、仕方がない。京都サンガは曺貴裁と心中することを選んだのだから…。

 

 

 

利他の心

先のW杯で、日本代表はドイツとスペインを破り、コスタリカには敗れた。

チームの出来、そして個人の質から言って、コスタリカは易しい相手では無かったが十二分に勝機が望める相手であったと思う。しかし、日本は敗れた。

 

京都サンガも同様で、2014〜2018年頃と比べると地力が増している部分もある。しかし、偶然を必然にする試みは欠けており、旧態依然とした体質は変化していない。もっと言えば、努力が成果に結びついていない踊り場状態と云うより、そもそも努力の方向性が誤っていたり努力が圧倒的に足りていない。だから、今は上手く行っている様に見えるだけで、本質的には何も進歩していない。

 

1月6日の京都新聞のWeb報道によると、伊藤社長は2023年の平均観客動員数目標を「1万4千人以上」(おそらくリーグ戦)と発しているそうだ。

 

 

発する事は良い。しかし、いつファン・サポーターの方向を向いて発するのだろうか。(明日の新体制発表会か…?)何を目指し、どう歩んでいくつもりなのだろうか。

 

愛されるクラブになるには、まず自らが他者を愛さなければならない。「みんなから必要とされるクラブに変わっていく必要がある」。言葉ではこうしてなんとでも言える。

期待はしていなかったが、やはり今オフも"向き合う場"すら無いのだろう。未だに開催するorしないのメッセージすら無い。

 

 

いつまで経っても市民に「パープルサンガ」呼ばわりされるのは、それ相応の理由がある。偶然を排除し、勝つべくして勝つ組織にならなければ進歩はない。

新スタジアム移転。そしてJ1復帰。追い風が吹いているからこそ、自然体で起きたポジティブな変化も感じられるが、偶然を必然に変えられない組織にやがて待ち受けるは『成長』ではなく『衰退』なのである。

 

そして、勝てば称賛し、負ければ叩く。誤解を恐れずに言えば、結果だけを切り取った上っ面の"掌返し"が許されるのは一見の客だけである。

表面的な結果だけを見て自惚れ悲観するのではなく、普段から追い掛けているこそ、内容をよく吟味した上で『成長』に繋がる健全な叱咤激励を飛ばすべきだ。それこそがサポートだと思う。私見だが。

 

 

ピッチ内外の空虚な『成長』が改善される日は来るのだろうか。それとも右肩下がりで衰退していく京都市と一緒に沈没していくのだろうか。

今このクラブは20点〜30点の実力しかないのに、テストを受けてみたら合否ラインの60点がたまたま稼げてしまっている状態。現場レベルではなく、社長を含め全社的にド真剣に取り組まなければ、このフロックが終わる日は近い。(完)

 

 

See you soon…!