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京都サンガ、セレッソ大阪、清水エスパルス…相次ぐJリーグクラブの減資、そのメリットとは?京都サンガの減資を考える -(株)京都パープルサンガ資本金・株主変遷-

 

前回の記事では、京都サンガF.C.の運営法人:株式会社京都パープルサンガ代表取締役社長および会長そして名誉会長の変遷について取りまとめ、その歴史を振り返った。

今回は2023年末(令和5年末)に株式会社京都パープルサンガが減資を実行したことを題材に、①(株)京都パープルサンガの株主構成の変遷。②減資とは何か。③令和5年12月に実施した(株)京都パープルサンガの減資。④各Jリーグクラブの減資動向と資本金について考えたい。

 

 

前回は京都サンガの歴史を振り返ることにかなり重きを置いたが、本記事は京都の歴史を鑑みて、クラブの減資に関して解説する記事となっている為、広く参考になれば幸いである。

 

前回記事

 

 

 

株式会社京都パープルサンガ 資本金&株主変遷

減資について考える前に、まずは本記事執筆のトリガーとなった京都サンガの運営会社:(株)京都パープルサンガの資本金および株主の変遷について整理したい。

 

1994年1月13日(法人設立時):資本金18億2000万円

⚫︎株主(計20企業・団体)・資本金18億2000万円

京セラ(株)・(株)任天堂・(株)ワコール・(株)京都銀行村田機械(株)・イセト紙工(株)(現:(株)イセトー)・オムロン(株)・宝酒造(株)(現:宝ホールディングス(株))・日本写真印刷(株)(現:NISSHA(株))・アサヒビール(株)・(株)ルシアン・ムーンバット(株)・長沢紙化工業(株)・ダイニック(株)・(株)京都新聞社・竹中エンジニアリング(株)・千玄室(※裏千家家元)・(株)イシダ・京都青果合同(株)・(株)淡交社 ※順不同

1994年1月13日、教育研究社FC京都パープルサンガのプロ化・運営権の継承へ、(株)京セラパープルサンガが設立。Jリーグ入りへスタートを切った。

京セラが10億円を、任天堂が3億円を、残りの18企業・団体で5億2000万円を拠出し、資本金18億2000万円にてスタートした。54.94%の株式を保有する筆頭株主:(株)京セラの非連結子会社としてできた同社へ、長沢紙化工業(株)および関連会社の(株)教育研究社から運営権が継承された。

 

設立時の出資者については、桂充弘氏や長澤浩三氏らサンガ側に立って「京都にJリーグを」の熱を高めた人物たちに感化された京都経財界のキーマン:京セラ/稲盛和夫会長・イセト紙工/小谷隆一社長(京都商工会議所副会頭)・ワコール/塚本幸一会長(京都商工会議所会頭)・任天堂/山内溥社長らが中心的存在となっている。

特に、京セラが親会社として引き受ける上で稲盛名誉会長が小谷隆一氏や徳留正美/秘書に明かした3つの条件の達成には、「正和会」の存在を抜きに語ることはできない。

⚫︎稲盛会長が提示した3つの条件

1.本拠地である西京極を京都市Jリーグ仕様に改修すること

→大規模改修されることに

2.任天堂が多額の出資をすること

→京都にJリーグを市民の会代表の桂充弘弁護士が直談判し、8億円の支援を取り付け

3.小谷氏が京都の経済界をまとめ、出資する会社が複数現れること

 

ワコール/塚本幸一会長を筆頭とした大正・昭和生まれの経営者「正和会」が、果たした役割は大きく、小谷氏の根回しに対して京都を活性化させるべく共鳴した会のメンバーたちが出資者・発起人の大半を占めたのであった(名簿内の赤色網掛け部分が設立時出資企業・団体)。

幾人かのキーマンと、そのキーマンの熱に感化された様々な人物が1つの目標に向けてまた熱をたぎらせて、利害を超えて尽力した結果、京都サンガが生まれたことを改めて思い知らされる。

京都で起業したワコール創業者の塚本幸一さんは一回り先輩の経営者でした。当時の京都経済界では、明治生まれの方々が中心で、大正・昭和生まれの我々は〝若手〟でした。そこで塚本さんが京都の若手経営者を集めて「正和会」という会をつくり、毎月一度集うことになりました。(村田機械・村田純一会長)

 

 

1994年7月21日(第1回増資時):資本金18億4000万円

⚫︎株主(計22企業・団体)・資本金18億4000万円

京セラ(株)・(株)任天堂・(株)ワコール・(株)京都銀行村田機械(株)・(株)イセトー・オムロン(株)・宝酒造(株)・日本写真印刷(株)・アサヒビール(株)・(株)ルシアン・ムーンバット(株)・長沢紙化工業(株)・ダイニック(株)・(株)京都新聞社・竹中エンジニアリング(株)・千玄室・(株)イシダ・京都青果合同(株)・(株)淡交社京都府京都市 ※順不同

400株を追加で発行し、京都府京都市が出資。資本金が計2000万円増加した。

 

1997年10月4日(第2回増資時):資本金36億500万円

⚫︎株主(計31企業・団体)・資本金36億500万円

京セラ(株)・(株)任天堂・(株)ワコール・(株)京都銀行村田機械(株)・(株)イセトー・オムロン(株)・宝酒造(株)・日本写真印刷(株)・アサヒビール(株)・(株)ルシアン・ムーンバット(株)・長沢紙化工業(株)・ダイニック(株)・(株)京都新聞社・竹中エンジニアリング(株)・千玄室・(株)イシダ・京都青果合同(株)・(株)淡交社ローム(株)エムケイ(株)ニチコン(株)(株)京都放送月桂冠(株)(株)藤清(株)堀場製作所日本電産(株)(現:ニデック(株))京都パープルサンガ市民持株会京都府京都市 ※順不同

97年秋、債務超過解消と大型補強の実施を背景に大規模な増資を実施。ロームら新規の出資企業を募ると同時に、設立時は「市民に迷惑をかけてはいけない」との稲盛会長の考えで退けられた"市民持株会"による出資・参画も実現された。

なお、2004年11月の京セラミタ(現:京セラドキュメントソリューションズ)のプレスリリースによると、京セラの株式保有率(当時)は55.4%とのこと。設立時の出資額10億円と同額を追加で出資していると仮定すると、20億円÷36億500万円=55.47%となるので、合点がいく。おそらくは既存株主については京セラを筆頭に同額の追加出資が要請されたのではないかと推測される。(実際に応諾したかは別として)

>京セラ株式会社(社長:西口泰夫)、同社の100%子会社である京セラミタ株式会社(社長:岡田哲夫)及びその現地法人である京セラミタドイツ社(社長:ラインホールト・シュリアカンプ)は、今月11日ドイツにおける記者発表会で、ドイツサッカーブンデスリーガ一部リーグに所属するボルシア・メンヘングラッドバッハのメインスポンサーになることを発表しましたのでお知らせ致します。

>京セラは、日本のサッカーリーグJリーグに加盟し、現在J2に所属する京都パープルサンガを支援するため、1994年から同チームの運営会社に出資(出資比率55.4%)するとともに、メインスポンサーを務めていますが、海外でプロサッカーチームのメインスポンサーになるのは今回が初めてとなります。

https://web.archive.org/web/20140403224049/

 

2006年2月:資本金36億500万円

⚫︎株主(計29企業・団体)・資本金36億500万円

京セラ(株)・(株)任天堂・(株)ワコール・(株)京都銀行村田機械(株)・(株)イセトー・オムロン(株)・宝酒造(株)・日本写真印刷(株)・アサヒビール(株)・(株)ルシアン・ダイニック(株)・(株)京都新聞社・竹中エンジニアリング(株)・千玄室・(株)イシダ・京都青果合同(株)・(株)淡交社ローム(株)・エムケイ(株)・ニチコン(株)・(株)京都放送月桂冠(株)・(株)藤清・(株)堀場製作所日本電産(株)・京都パープルサンガ市民持株会・京都府京都市 ※順不同

資本金に変動はないが、ムーンバットと長沢紙化工業の両者が株主から離脱。

以下の画像は当時の資料の一部である。2005年末まで名前のあった両社が、2006年2月末時点では存在しない。一方で資本金自体は変わらず=どこかへ株式が移転したと推測される。その先は…一番有力なのは推測の域を過ぎないが、当然ながら京セラ(株)であろう。

なお、ムーンバット(株)は現在もバリバリ営業している東証スタンダード上場企業で、2006年当時は京セラ(株)が大株主一覧に名を連ねている。移転した理由は不明。

長沢紙化工業(株)については、2005年6月24日にサンガの父の一人と言える長澤浩三氏が逝去された為、整理された可能性が高いと推測される。

2005年11月23日 J2第42節 京都パープルサンガ(当時)vs湘南ベルマーレマッチデープログラムより抜粋

 

2006年 京都パープルサンガ イヤーブックより抜粋

同時に、千玄室・家元の名前も見当たらないが、2009年のイヤーブックにて裏千家今日庵(現:一般財団法人 今日庵)がサポーティングカンパニー(株主)として掲示されており、実質的には保有し続けていたと推測。

※「個人故にサポーティングカンパニー欄から外れていた」「裏千家関連会社であり、千玄室氏が主要株主を務める(株)淡交社に一時的に移転させていた」などが考えられる。いずれも裏千家として現在に至るまで所有しており、実態としては大きく変わりない為、これ以上の精査は控えておく。

 

2023年1月20日:資本金36億500万円

⚫︎株主(計28企業・団体)・資本金36億500万円

京セラ(株)・(株)任天堂・(株)ワコール・(株)京都銀行村田機械(株)・(株)イセトー・オムロン(株)・宝ホールディングス(株)・NISSHA(株)・アサヒビール(株)・ダイニック(株)・(株)京都新聞社・竹中エンジニアリング(株)・一般財団法人 今日庵・(株)イシダ・京都青果合同(株)・(株)淡交社ローム(株)・エムケイ(株)・ニチコン(株)・(株)京都放送月桂冠(株)・(株)藤清・(株)堀場製作所日本電産(株)・京都パープルサンガ市民持株会・京都府京都市 ※順不同

減資前の状態として2023年イヤーブックに掲載のサポーティングカンパニーを明記しておく。資本金は変化していないが、前回同様に株主構成に変化が見られる。社名や団体名の変更だけではなく、(株)ルシアンが(株)ワコールへの吸収合併に伴って消滅。新ルシアンではなくワコールへ移転しているものと推測される。

 

2023年12月12日(減資時):資本金5000万円

⚫︎株主(計28企業・団体)・資本金5000万円

京セラ(株)・(株)任天堂・(株)ワコール・(株)京都銀行村田機械(株)・(株)イセトー・オムロン(株)・宝ホールディングス(株)・NISSHA(株)・アサヒビール(株)・ダイニック(株)・(株)京都新聞社・竹中エンジニアリング(株)・一般財団法人 今日庵・(株)イシダ・京都青果合同(株)・(株)淡交社ローム(株)・エムケイ(株)・ニチコン(株)・(株)京都放送月桂冠(株)・(株)藤清・(株)堀場製作所・ニデック(株)・京都パープルサンガ市民持株会・京都府京都市 ※順不同

2023年(令和5年)11月10日付官報第1100号にて公告の通り、2023年12月12日付で減資を実行。36億500万円とJリーグトップの資本金額から一気にスリムに。

 

一方、2024年京都サンガF.C.イヤーブックに記載の出資企業・団体一覧は、2023年と比較して特段変更はなかった。

 

 

減資のメリットとは?

「資本金」「債務超過」「減資」「増資」を理解しよう

いよいよ本丸へ進みたいところだが、もう少し整理が必要だろう。そもそも今回のテーマである「減資」とは、会社の資本金の額を減少させることである。

ここまで振り返ってきた京都サンガの事例で言えば、運営法人設立時に、京セラや任天堂らが会社の経済活動の元手となるお金を出資している。このお金が京都サンガからすれば「資本金」にあたる。この資本金を減らすのが「減資」。逆に増やすのは「増資」。京都では、過去に2回の増資を実施して、Jリーグトップの資本金36億500万円まで積み上がっていた。そして、2023年末に減資を実施した。

 

まだまだわかりづらい。もう少し考えてみよう。

貸借対照表

引用元:https://doda.jp/companyinfo/contents/finance/007.html

企業のある時の資産の状況を表した貸借対照表は「資産の部」「負債の部」「純資産の部」の3つから成る。

資産の部には現金・預金・土地・建物といった「資産」たち。負債の部には未払の給料や借入金など支払わないといけない「負債」たち。純資産の部には資本金や通算の繰越損益など、返済の必要がない正味の資産が含まれている。

 

例えば、Jリーグ初年度後の1996年12月末時点での(株)京都パープルサンガは、既に累積の赤字額が35億円を超えており、純資産がマイナスに陥っている。要は現金などの資産より、借入金など負債の方が17億円強も上回ってしまっている状態。

なので1997年秋に17億6500万円の大規模な増資が実施された訳であるが、この負債が資産を上回っている状態が「債務超過」状態。

株式会社京都パープルサンガ 1996年12月期決算公告

 

この後、増資や黒字を意識した経営により、債務超過は解消されたが、2007年末〜2010年途中の加藤久政権下での浪費の末、2010年度末には再び債務超過状態に陥る。ちなみに「投資その他資産」の内訳の多くは、当時在籍していたディエゴ・ソウザら高額の移籍金を要した選手たちとの契約権と推測される。

株式会社京都パープルサンガ 2010年12月期決算公告

2010年度(平成22年度)Jクラブ個別情報開示資料

 

一般論として、純資産額が多ければ多いほど、有事の際(例えばコロナ禍)にも耐えうる企業体力があると言える。

企業の特性・業種によって異なるが、下記の記事のように自己資本比率(企業の全ての資産の内、純資産が占める割合)が50%ほどあれば良好だとするならば、「減資」するよりも積極的に「増資」をした方が良いのではないだろうか……?

自己資本比率とは?業種別では何%くらいが目安なの? |転職ならdoda(デューダ)

 

(なお、2010年末以降の京都は、色々あった末に2022年度末時点で純資産6億600万円・自己資本比率46.43%という水準まで、資本の積み上げが図れている。)

2022年度 J1 クラブ決算一覧

世界一わかりやすい京都サンガ2022年度決算解説 -絶大なる新スタジアム効果とJ1定着&愛されるクラブの実現へ- - +1 プラスワン

 

 

クラブライセンス制度と純資産

併せて触れておかなければならないのがクラブライセンス制度」である。

このブログでは何度も触れてきたので、いつも見ていただいている読者には耳にタコかもしれないが、『サッカーの競技水準や施設的水準の持続的な向上』『クラブの経営安定化、財務能力・信頼性の向上』を目的に、Jリーグは2013年から「クラブライセンス制度」を導入している。

例えば、飲食店を営もうとすると、食品衛生法に基づく営業許可を得る必要がある。似た様な話で、施設面や経営面でJリーグの定める基準を満たしていなければ、どれだけ強いチームでもJ1やJ2といった舞台で戦うことはできない。その舞台に上がることが"認められない"のだ。

 

このクラブライセンス制度に於いて、各クラブの財政面に於いては以下の2点の大きな制約が生まれた。債務超過に陥ると、ライセンスが交付されず下位カテゴリーへの降格処分となるのだ。

・3期連続での赤字の禁止

債務超過(決算時点)の禁止

クラブライセンス制度とは何か?=2013年導入を目指すJリーグの不退転 - スポーツナビ

2018年より「ただし、ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日現在の純資産残高がライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度の当期純損失の額の絶対値を上回っている場合は本項目に該当しないものとみなす」の例外規定が設けられる

 

つまり、京都で言えば、先ほど触れた様なプロ化直後〜00年代初頭や2010年末と同じ債務超過状態に陥ると、J1ライセンスが剥奪されてJ1に居続けられなくなる。

 

 

減資のメカニズム

やはり減資に意味は無いではないかと思ってしまった貴方。まだ説明は終わっていない。

繰り返しになるが、「減資」とは会社の資本金の額を減少させることである。減資=純資産を減らすことではない。少し脇道にそれたが、ここからは減資のメカニズムそのものを考えよう。

 

以下の画像は、2022年度(株)京都パープルサンガ 決算をベースに、資本金を5千万へ減少させた流れを例として図にしたものである(※あくまで分かりやすく図にしただけなので、仮想のもの)。

見ての通り、純資産の金額自体は一切変わらず。「資本金」「資本剰余金等」「利益剰余金」の項目だけが変化している。資本金を減少させて、繰越赤字(利益剰余金のマイナス)解消および余りを「その他資本剰余金」に計上しているのだ。この一連の流れを"無償減資"と言う。

 

一方で、"有償減資"も存在する。以下の画像では先ほどの例と異なり、減資後に純資産額が減少している。これは減資を実施した際に、出資者へ配当を支払って、お金を返しているのである。なので流動資産(現金)も同じ額だけ減少させている。

そもそも資本金は出資者が拠出したお金で、出資者側にとっては「出資金」として資産計上されるものである。それを会計上、赤字の穴埋めに使用して帳消しするというのは、当初の期待をある種裏切った行為と言える。

例えば京都の場合は、前述の通り京セラが20億円強の資本金を拠出していると推測される。(実際にはこんな単純な話ではないが)5千万円へ減資となれば相応に資産が減ることとなる。

その穴埋めとして、株主へ財産を払戻しするパターンもある。

 

他にもスキーム自体は複数あるかもしれないが、ここではこの2通りのみを説明しておく。あくまで、減資=純資産が減少する訳では無いことは、理解できただろう。

減資とは?意味と種類、手続き、仕訳を分かりやすく|freee税理士検索

 

 

減資のメリットとデメリット

いよいよ肝心のメリットとデメリットである。

減資によって得られるメリットは、大きく3つある。

メリット①:欠損の補填

メリット②:節税

メリット③:補助金等の活用

 

メリット①:欠損の補填

資本金を取り崩すことで、帳簿上の累積の赤字を帳消しにできるメリットである。

例えば、研究開発に投資を行っているフェーズのベンチャー企業。こういう処は資金調達で資本は厚くても、事業としては肝心の収益が追いついておらず累積の赤字額がどんどん膨れていく。

累積の赤字が大きい決算はシンプルに「見映えが悪い」。サッカークラブの場合はあまり影響がないと思うが、「一般的に繰り越された欠損金が多いと、金融機関からの融資などを受ける際に、不利に働きます」という見方もできる。

 

◾️例 株式会社 QDレーザー(東証グロース市場上場)

2023年度3月決算で売上高11億円。当期純損失は5億5千万の大赤字。

資本金は32億強。資本剰余金も57億円。自己資本比率は90%超と、同じ程度の赤字を数年繰り返しても耐えられる企業体力はある。ただ、繰越損益は−45億円。

(私はこんな保有銘柄たちが少しでも早くさくらインターネットばりの爆跳ねを見せる日を待っている……)

QDレーザ【6613】の業績・財務推移[通期・半期・四半期]|株探(かぶたん)

 

メリット②:節税

資本金1億円以下の企業は、税法上"中小企業"として位置付けられ、税制上の優遇措置が適用可能となるこれが最も大きいメリットと言えるだろう。

(1)軽減税率が適用される

(2)年800万円以下の交際費枠がある

(3)繰越欠損金が控除される

(4)繰越欠損金が繰戻還付される

(5)少額減価償却資産の損金算入特例が適用される

(6)特別控除、特別償却が適用される

(7)同族会社の留保金課税が適用されない

(8)外形標準課税が適用されない

資本金1億円以下の会社の8つのメリット|freee税理士検索

 

メリット③:補助金等の活用

サッカークラブ(=サービス業)の場合、5,000万円以下になるまで減資を実施すれば、税法上のみならず中小企業基本法上でも"中小企業"扱いとなり、活用できる補助金の選択肢が増加する。

例えば、中小企業庁による「IT導入補助金」。ITツールの導入による生産性の向上などに対しての補助金だが、中小企業・小規模事業者の要件を満たさなければそもそも申請・活用は不可である。こうした経済活動を行なっていく上での選択肢が増えるメリットがある。

IT導入補助金とは | IT導入補助金2024

 

デメリット①:出資者に対しての背信行為→信用力の低下

"減資のメカニズム"内でも説明したが、そもそも資本金は出資者が拠出したお金で、出資者側から預かったもの。

一般的な無償減資の場合、純資産額自体は変わらないので1株あたりの純資産額は変化しない。とはいえ、出資金を赤字の補填に使いますというのは、ある種、出資時の期待を裏切る行為とは言える

ただし、資本金額の減少そのものによる信用力低下は、サッカークラブの場合はあまり該当しないだろう。Jリーグクラブの場合は決算が開示されているし、後ろ楯となる親会社の存在感が確かならば信用力は十二分にある。地方の零細クラブなら、売り手側も与信リスクを気にするかもしれないが……

 

デメリット②:節税→自治体の税収減

納税者にとって「節税」というメリットがあれば、逆に自治体にとっては得られる法人住民税・法人事業税が減少するリスクがある。これは一般企業かつ節税志向の経営者ならば気にしないかもしれないが、地域に支えられて成り立つサッカークラブとしては憂慮すべきポイントであろう。

総務省|地方税制度|法人住民税・法人事業税

 

 

京都サンガ(株式会社京都パープルサンガ)の減資について

このタイミング(4月26日)で決算広告が為されたので、京都の減資そのものについて改めて触れる。

https://web.archive.org/web/20240429100407/https://kanpou.npb.go.jp/20240426/20240426g00105/20240426g001050060f.html

 

23年度末純資産額が、22年度末純資産額+23年度純利益の合計額と同額なので、行なったのは無償減資。

「資本金」を減少させて、「その他資本剰余金」へ振替。更に「その他利益剰余金(繰越利益剰余金)」へ繰越損失と同額を振替して損失をてん補…の流れと推測される。


なお、先ほど減資のメリット・デメリットにて"節税⇔自治体の税収減少"を挙げたが、京都の場合は株主に京都府京都市が名を連ねている。

今回の減資は、当然ながら、京セラをはじめとする企業群と京都府京都市ら株主・債権者に許可を得て実行されている。社長変遷でも記述した通り、TEAM京都発足〜サンガスタジアムの開業など、伊藤社長就任以降、改めて良好な関係を構築できていたからこその実行という見方はできる。

 

 

他のJリーグクラブの事例

全部では無いが事例をまとめてみた。基本的には、債務超過回避への手段として、繰越損失解消および増資の一連の流れの中で実行されてきた様子である。

また近年では、節税も含め、資本金が大きいが故のデメリットを回避するために実行している様子である。

株式会社横浜フリエスポーツクラブ 資本金の額の減少(無償減資)に関するお知らせ | 横浜FCオフィシャルウェブサイト 

(3)資金調達の状況7月22日に新株発行を行い、4,000株の増資を行いました。またその後の12月20日に減資を行い、資本金を50百万円に致しました。

 

京都の様な資本金が巨額のクラブも少なければ、直近の決算状況が良好なクラブも少ないので、整理のタイミングとしては珍しいと言えるかもしれない。

 

 

最後に

ざっくりではあるが、減資とはなんなのか。そのメリット・デメリットおよび今回の株式会社京都パープルサンガの減資について理解が深まったのでは無いだろうか。セレッソの決算公告が出たら、そちらも触れてみたい。

また、京都の増資および減資そして株主の変遷について触れた資料はほぼ存在せず、今回も歴史を振り替えることに一定の意義がある…と思っておこうではないか。

 

おまけとして。これまでトップに君臨し続けていた京都が減資を行なった為、資本金の額でリーグ全クラブでトップに立ったのは鹿島。次点でまた増資を実施した広島。3番手でFC東京の順。1位と3位は近年資本構成が変わったクラブである。

但し、札幌は今夏に9億円の増資が実施されるとの報道もあり、実施内容如何では札幌が近々トップに立つ可能性がある。

【無料公開・速報】6年連続・4億円赤字計上の北海道コンサドーレ札幌に9億円増資の「救いの神」あらわる! | ニュース | Zaisatsu.jp【財さつJP】

 

それから京都の株主一覧についても再度置いておく。ちょっとわかりづらいが、白マスは出資していない空白期間。

なお、ルシアンはワコールが吸収合併。また、月桂冠も藤清を2009年にM&A(買収)しており、実質的には藤清所有の株式も月桂冠支配下にあると言ってよいと思われる。

[M&A事例]100年以上続く家業をお譲りするお相手は妥協したくないと考えていましたが、372年の歴史を持つ老舗企業にお譲りすることができ感謝しています | 【実績No.1】M&A事例インタビュー | 日本M&Aセンター

 

 

 

疲れたのでこの辺りで。やはり最初から最後まで全力で飛ばしきるのは至難の業のようだ。

See you soon