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なぜレッドブルは大宮アルディージャを買収したのか?

 

レッドブル・ゲーエムベーハー/Red Bull GmbH(本社:オーストリア連邦共和国 代表者 オリバー・ミンツラフ、以下「レッドブル」)と東日本電信電話株式会社(本社:東京都新宿区 代表取締役社長 澁谷 直樹、以下「NTT東日本」)は、NTT東日本保有する大宮アルディージャおよび大宮アルディージャVENTUSを運営するエヌ・ティ・ティ・スポーツコミュニティ株式会社(本社:埼玉県さいたま市 代表取締役社長 佐野 秀彦、以下「大宮アルディージャ」)が発行する株式100%をレッドブルに譲渡する株式譲渡契約を締結したことをお知らせいたします。株式譲渡は2024年9月を予定しております。

株式譲渡について|大宮アルディージャ公式サイト

レッドブル、J3大宮アルディージャ買収 日本初「外資オーナー」の衝撃 - 日本経済新聞

 

以前から報道されていた大宮の身売りが現実のものに。

 

 

金額は3億円とのこと。Twitterでも述べた通り、妥当な金額でしょう。悲しいかな、顧客基盤等の無形資産含めた付加価値は「0」。ただ、純粋な0というよりは、NTTとしては純資産額でセールできればOK。レッドブルは3億円程度ならドブに捨てても痛くない。お互いの妥協点を探った結果、0に落ち着いた。そんなところか。

 

そもそも、サッカークラブは収益を大幅に稼げるものではない。

現状のJリーグの収益構造では、放映権料収入や移籍金収入で莫大な利益を上げることは困難。また収益がたんまり稼げたとて、それを親会社が吸い上げたりすることは現実的に難しい。

たった6球団しかいなくて、選手も勝手にプロテクトされていて、情報公開の程度も限られていて、世界との繋がりも薄くドメスティックで閉鎖的なプロ野球であれば可能かもしれない。が、サッカークラブの場合は増えた収入を戦力補強に投じていかないとチームの地位向上につながらず、戦力を維持することもままならない。収入は増やしていかないといけない。しかし、収益は増えていてOKではない。余らせるくらいなら使っていかないとダメ。

 

製造業で、モノを作って売って、年商が20億〜30億ほど。利益が数千万〜億程度。こんな企業ならもっと価値は出ていたかもしれない。けれども、サッカークラブの場合は収入の中に親会社からのスポンサー料も含まれる。

買ってきたら、あとは勝手に利益を作り出してくれるか?いや、そうではない。むしろ毎年持ち出しが要る。ならば純資産額と同程度に落ち着くのは自然でしょう。

 

インカムゲインが難しいなら、キャピタルゲインは得られるのか?

これも先述の通り、プロスポーツクラブの事業特性上、巨額の利益を稼ぐこと自体が難しい。かつ、Jリーグでは5年後〜10年後にリセールする際の巨額の売却益を得る可能性は低いと言わざるを得ない。

仮に、浦和や横浜FMフロンターレくらいの地位に大宮を押し上げられればブランド価値は間違いなく増すが、当然ながら相応の投資=持ち出しが要る。

 

 

なぜJリーグに参入するのか?

そもそも、なぜJリーグを選んだのだろうか。

 

その1:販促ツールとして

スポーツを活用したマーケティング等、特徴的なマーケティング活動でブランド力を高めてきたレッドブル。日本においても「翼をさずける」のフレーズが印象的なテレビCMなどで、既に一定の知名度と市場シェアは獲得できているように思える。2022年の記事によると、レッドブルエナジードリンク内で2番手の位置を占めている様子。

エナジードリンク飛躍、販売額4年で3倍増 日本コカは苦戦:日経クロストレンド

 

少子高齢化社会の我が国ではあるが、世界有数の経済大国であることに変わりはなく、データによるとエナジードリンク市場も拡大基調にある。つまり妙味はある。

エナジードリンク市場、第三極が出現して拡大 「レッドブル」「モンスター」値上げも外出機会増加で成長予想

 

一方、最初の記事にも記載の通り、サントリーの「Zone」など新たな競合商品も登場。

流行り廃りが激しい飲食品の中でシェアを高めていくには、やはりレッドブルらしい革新的なマーケティング施策で存在感を強めなければいけない。日本市場における親会社の広告宣伝・販促ツールとしての参入かもしれない。

 

 

その2:アジア圏の実験場として

ただ、日本市場のみと目先の収益だけを考えれば、これまでのレッドブルマーケティングとは逆行するかもしれないが、よりマスが狙えるプロ野球に中日やロッテ辺りを買収して参入してしまえば良いのである。

企業名はOKで露出量は段違い。やる気のないオーナーから、投資意欲のあるオーナーへ変わる事について、ファンはギブミーチョコレートよろしく歓迎姿勢。MLBや欧州サッカーと比べれば年俸はリーズナブルで他球団への移籍は困難と、『選手<球団オーナー』の関係。MLBにポスティングしようものなら多額の移籍フィー発生。球団自体で収益は上げられなくとも、球場も傘下に納めることができれば収益を掠め取れる…良いことづくしである。だが、プロ野球ビジネスへの参入障壁は比較的高い。

 

その点でサッカーは参入障壁が低く、何よりレッドブル・ザルツブルクRBライプツィヒを含め既にサッカークラブを保有している為、シナジーも生まれる。

 

レッドブルは、本国であるオーストリアの他にドイツ・アメリカ・ガーナ・ブラジル…とサッカークラブ経営を展開してきたが、アジア圏は空白地帯となっている

Jリーグの競技レベルはアジア圏に於いてはトップクラスにあり、欧州メガクラブへ活躍の場を移す選手も時折生まれるほど価値はある。かつ提携国枠の存在により、ASEAN各国の選手をチームに加えやすい

その為、Jリーグに参入することにより、日・中・韓+東南アジア諸国の選手をリクルートし、一旦はJリーグで様子見。Jリーグのレベルを超える有望な選手は、グループ内で育てた上で欧州本部へ"出荷"することができるようになる

アジア圏へ進出することは、サッカークラブ事業内でのメリットがあると言えるだろう。

 

 

なぜ大宮アルディージャだったのか?

その1:利害関係者が少ないから

Jリーグ発足時からの考え方として、親会社一社に依存しない経営(リスク分散)を実現するために、「出資やスポンサードは広く募りましょう」というセオリーがある。その為、多くのJリーグクラブは地元有力企業や自治体が出資を行っているが、大宮については、エヌ・ティ・ティ・スポーツコミュニティ株式会社が100%の株式を保有してきた。

その為、買収後の意思決定や諸々の調整を省いて何もかもを素早く実行できる土壌がある

 

その2:NTTにとってお荷物だったから

買いたくても、売り手がいなければ買うことはできない。その点で大宮はNTTにとっての売り離したい存在であった。この売却で得られる経済的効果は「たったの3億円」ではない。売却で手切れしてスポンサー料の持ち出しが減れば大きなコストカットに繋がる。J3降格が決定打になったのではなく、それ以前から切りたい存在だったのだろう。

 

その3:ある程度成熟した都心部のクラブだから

これは散々言われているが、腐っても長年J1に在籍していたクラブである。クラブハウス・練習場も数年前に完成済み。アカデミー組織も確立されている。そして首都圏・さいたま市という立地条件・マーケット。NACK5スタジアムのキャパの小ささは発展の妨げとなるが、この程度のクラブを3億円で買収できるのは、Jリーグ参入を目指す企業にとってはお買い得であろう。(NOVAは買えるモノなら本当はこっちを買いたかっただろう…)

 

その4:新スタジアム構想があるから

大宮公園グランドデザインからスーパーボールパーク構想へ…新スタジアム構想が水面下で動いており、本拠地のキャパが広がる可能性がある。そうなれば収入増→再投資の絵は描きやすい。

大宮スーパー・ボールパーク構想 - 埼玉県

 

ただ、個人的な気持ちとしてはつまらない。第二公園へ移れば大宮駅との距離は更に遠ざかるし。

これまでサッカーだけではなくBMXやスケートボード、eスポーツから音楽イベントまで、エクストリームスポーツを中心にニッチでコアなカルチャーを活用したマーケティングを行ってきたレッドブルは"ソフト"を有していると言える。

ならば相応しい"ハード"を手中に収め、魔改造してくれれば、日本に於けるサッカースタジアムのプレゼンスは高まるのだが…

 

 

3年後〜5年後に見返せるように残しておく。答え合わせはどうなるか。