おそらく需要は皆無なのだろうけど、しばらくシリーズもので書きます。
今回はそのシリーズもののプロローグもとい補足資料を。
先日、京都サンガのグッズ収入(以下、公表資料と合わせる為「物販収入」と呼ぶ)と収益構造について触れました。
この時は京都サンガ単体での比較(=過去との比較)でしたので、今回は他クラブとの比較をします。他所とも比較した上で結論付けないとアンフェアだからね。
なので前段として先程の過去記事も目を通してくださいね。
J1クラブの物販収入状況
Jリーグでは、クラブの経営情報を毎期開示していますが、2016年度分からは物販部門の収入と経費も公表される様になりました。これによりスポーツクラブの収入の柱とされる「チケット収入」「広告料収入」などだけでなく、「物販収入」の多寡と収益性がわかる様になりました。
そして、先程の過去記事では要約するとこんな事を書きました。
・京都サンガの物販収入が20年度以降減少している。但し経費も伴って減少。
・要因は加茂商事(サッカーショップKAMO)への外注であると予測される。
・外注化により効率化できていれば良いが、むしろ収益性は悪化している。
・収益面と事業戦略面、短期的にも長期的にも得策ではないと考えられる。
・が、特段クラブの方針は示されておらず「密室」的である。
・もしくは、そもそも方針そのものが欠落している可能性すらある。
繰り返しになりますが、これは京都サンガの直近5年間の推移を比較したものになります。
よって、本稿では2021年と2022年の2シーズン中に明治安田生命J1リーグに所属したクラブの推移をまとめる事で、前回とは別の角度から京都の現状を見つめたいと思います。
物販収入
上表は直近5年間の物販収入の推移です。これだけでも各クラブの特徴が見えてきますが、収入だけで判断するのはミスリード。
2018年度の経営情報資料にも"「物販収入」および「物販関連費」は、代理店に委託販売しているケース等もあることから、取扱い高総額でのクラブ間比較はできない。"と記載のある通り、費用・収益を含めて総合的に見る必要があるでしょう。
よって引き続き経費などの推移も貼っていきます。
物販関連費
物販収益
利益率
並べて見てみると、面白い変化が起きている箇所が複数あるのがわかるかと思います。
基本的に売上・費用が両建てで増えている場合は、物販の拡充・昇格・スター選手の加入などシンプルな要因で増えているものと予想されます。札幌・FC東京・横浜FC・福岡・神戸などが当てはまるでしょう。
また、横浜FMが2020年度に記録した売上10億円という驚異的な数字も特徴的で、これは前年のリーグ制覇を受けたユニフォーム販売の好調さやコロナ禍の中での営業努力の賜物と言えます。
推移表の中で突然売上・費用の両方が大幅に減少している場合は、京都の様に「外注委託」を利用している可能性があります。
表を見る限り、仙台・湘南・柏・清水が候補として当てはまるでしょう。
仙台は毎年1.5億円ほどあった売上が、直近の21年度で4,600万円にまで大幅減少。京都同様に利益も減っている。これで単純に「グッズが売れなくなった」ならあまりの落差で悲しすぎますが。
湘南は数年前から有名ブランドとコラボするなど、物販にかなり注力していた印象ですが20年度から大幅減少。一方で、21年の利益率は68%と非常に高いパフォーマンスを残しています。数字だけを見て判断すると、外注化を選択した可能性があります。ECサイト上に名前のある株式会社ESSPRIDEあたりでしょうか?
柏は流石の極端さで、いきなり収入と費用が100万円ぽっちに。利益は0。すごい。。。京都も大概だが、このクラブと大宮も親会社頼みのブラックボックス感が強く、不明点が多々ある処。考えられる可能性としては、スポンサー企業であるローソン・ヨネックス・加茂商事に完全委託していて、スポンサー料やサプライヤー収入として対価を貰っている…とか。
清水は2020年12月にファナティクスと10年間の長期パートナーシップ契約を締結しました。
ファナティクスは世界最大級のスポーツチームのグッズ製造企業で、クラブやリーグからライセンスを買取って、グッズを企画販売するビジネスモデル。めちゃくちゃ雑に例えると、ウォルトディズニーとオリエンタルランドの関係性。セレッソ大阪も提携を始めたほか、プロ野球では西武ライオンズ・日本ハムファイターズ・ヤクルトスワローズが提携しています。
清水は提携後初年度である21年度に物販収入が前年比2億1千万円も減少していますが、同様に費用も2億2千万円減少。利益は1千7百万円も増加しているので、物販に掛かっていたマンパワーを他の分野に回しつつ、以前よりルーキー3人分位の年俸分儲かったと言えます。ひとまず船出としては良い結果かな。
逆に大分の収入・費用・利益の伸びはなんなんだと気になるところですが、情報不足なので触れずに置いておく。知っている人が居れば教えてください。
肝心の京都サンガについては、見ての通り圧倒的に規模が小さく、収益力が弱い事がわかります。
要因としては、第一にマーケット(購入者の母数)が小さい。売上を伸ばすだけの品揃えがない。これに尽きると思いますが…
物販部門の位置付け
改めてになりますが、Jリーグクラブは「物販でお金を稼ぐ」事を目的とした組織ではありません。
物販部門は、「①Jリーグの理念と各クラブの理念を実現する為の手段」。あるいは、「②長期的に持続可能なクラブ運営を行っていく為(=企業活動を存続する為)の収入確保の手段」の一つとして、存在意義がある事を認識しておく必要があります。
①については、Jリーグには以下のような理念があり、Jリーグに加盟する以上は構成員として目的(理念)の達成へ努力が求められます。
ただの”プロサッカー興行を主催する団体”ではなく、”サッカーを中核に地域を活性化する団体”として活動をする事が、「Jリーグ良いよね!」「○○(クラブ名)を応援しよう!」と多くの人々の共感を産み、結果的にサッカーおよびクラブ自身の普及・発展に繋がります。
(より具体的に、より実利的な話をすれば、公共財として機能するJリーグクラブの活動に対して、イメージアップや社会貢献を目的とした民間企業からの協賛・支援を呼び込みやすくなるほか、地元自治体が税金を拠出してスタジアム等を整備する理由の根拠・裏付けの一つとなります。)
その目的に対する手段の一つとして物販が挙げられるわけです。
②については、クラブの倒産・チームの解散を防止するには売上・利益を確保しなければなりません。選手や社員を含めて各関係先への支払いができなければ、どれだけ大層な夢を語っても終わりです。(協賛を得易くする①と重なる部分がありますが)マネタイズ手法の1つとして存在意義があります。
また、クラブの経済規模が大きくなれば、比例して地域への経済波及効果も大きくなる可能性があります。物販部門で確保した収益は、チーム強化や地域貢献活動へ投資する事もできます。目的に対しての手段として、①と②は関連性があります。
京都の現状
では話を元に戻します。
・グッズの売上高をJ1他クラブと比較した処、文字通り桁が違う
・前回記載通り、外注化したと思われる2020年度以降は利益率も悪化
・売上を含め物販が理念や地域貢献の達成に繋がるアクションとして機能していない
以上の事象から、やはり京都サンガの物販部門の状況は好ましい状況とは思えません。
あくまで外注化を批判したい訳ではなく、内製化が必ずしも良いとは限りません。これもまた手段であり、一般企業同様に自社の立ち位置等を勘案して上手く使い分ける事が重要でしょう。
よって繰り返しになりますが、物販部門の評価基準としては目的を達成する為の手段として存在意義を果たしているかどうかを考えるべき。で、その観点でもう一度見てみても現状はやはり物足りないと言わざるを得ない。外注化でお茶を濁すのは野心的ではないと評さざるを得ない。
例えば、昨年度は広島県リーグ(J1から数えて6部相当)に所属していた福山シティFCは物販収入で1,100万円の売上を記録。
彼らは地域の特産品であるデニムを、理念の達成とマネタイズ手法の一つ、そしてブランディングに活用している。
>福山シティFCはスポーツを通じて地元の魅力を発信していくクラブである。選手がジーンズを履いて移動していたら、気になった人はネット検索をするだろう。そこで、福山市はデニムの生産量が日本一であること、篠原テキスタイル株式会社、株式会社弘文を知ってもらえる。こういった小さな積み重ねが福山の課題解決へと繋がる。知名度の向上や福山の魅力への気づき。クラブを通じて福山を全国へと発信していくのだ。
福山シティFC×福山のデニム産業|【公式】福山シティフットボールクラブ|note
【決算報告】2021年度「一般社団法人 福山シティクラブ」第6期 決算報告について | 福山シティフットボールクラブ | 公式ウェブサイト
J3の福島ユナイテッドは、「農業部」を立ち上げて選手自らが一部農作に従事している。2021年は売上1,000万円の大台に到達。単なる収入の柱の一つとしてだけではなく、プロサッカー選手が農業に従事する異色さが、結果的にニュース番組や新聞紙面内の限られたスポーツ報道分ではなく社会面に掲載されるなどチームへの注目を高めている側面もある。
>東日本大震災の原発事故の影響で受けた県産品の風評被害を払拭すべく、2014年から「福島ユナイテッドFC農業部」を立ち上げ、地元農家たちとタッグを組んで育てた農産物をイベントや試合などで販売してきた。
サッカー選手が「農業」に挑む 福島ユナイテッドFC、新機軸の好調ビジネス | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)
【シャレン!/福島ユナイテッドFC】 想いを乗せて、福島や農作物の魅力を届ける。選手自ら汗を流す「農業部」|Sports for Social
そして忘れてはいけないガイナーレ鳥取の「野人プロジェクト」。
京都より規模やカテゴリーは劣るけど、京都より視座の高い活動をしているクラブは存在する。
サッカー以外にも目を広げれば、これまた数は増えるでしょう。
対して京都は、クラブの源流である紫光クラブ創設から数えて100年目に当たる年に販売する限定ユニフォームのデザイン一つをとっても、顧客とコミュニケーションが図れていない状態。(引用RT欄の反応がすごい。。)
🟣『2022リミテッド(限定)ユニフォーム』着用のお知らせ🟣
— 京都サンガF.C. (@sangafc) 2022年8月10日
9月のホームゲーム3試合で着用します❗️
アグレッシブなプレーと燃える情熱のレッドとパープルの組み合わせ🔥🔥🔥
販売情報は改めてご案内いたします🙇♀️#sanga #京都サンガ #SAdventure #みんな輝け https://t.co/UHEa3CVx4i
クラブとして何処を目指すのか、その為の目標(売上・順位等々)設定は何処に置くのか。
理念として「サンガに関係する全ての人々と夢と感動を共有し、地域社会の発展に貢献する」と定めているが、如何にして絵に描いた餅に終わらせず、実現へ導くのか。
かつて稲盛名誉会長は、「まず事業の目的、意義を明確にすることが必要です」「事業の目的は、できるだけ次元の高いものであるべきです。言葉を換えれば、公明正大な目的でなければならないのです 」と論じました。
京都サンガが今まで再三再四しくじってきたのは、親会社にあたる京セラから送られてきた人物が「京セラフィロソフィー」に反するアクションを起こしてきたから。
今だからこそ、育ての親に恥じぬ振る舞いを、伊藤社長以下クラブ一丸となって見せてもらいたい。
ひいては大元を正す事が、グッズ・マーチャンダイズ部門の存在意義の確立と「お客様第一主義」に繋がり、グッズへの不満の解消に至る事でしょう。
それにしても、伊藤社長の「メインスポンサーであり続けてくれるはず。稲盛さんが考えてくれていたのはビジネスではなく、社会貢献や地域貢献。その意志を引き継いでくれると思う。」というコメントは、どう捉えれば良いものか…
京都のスポーツ界にも稲盛和夫さんの功績 陸上女子中長距離界の底上げに貢献|スポーツ|地域のニュース|京都新聞
悩みは尽きませんね。
see you soon…!
追記(2022年9月5日PM19:00):なんか出るらしい。FLAGS TOWNみを凄く感じるけどどうなるか見てみようではないか。
シーズン終盤になってサンガがようやくやる気出してきた🤣 pic.twitter.com/nbyBZCcU1Y
— じょー (@ken04_23) 2022年9月3日
引用元
Jリーグクラブ経営ガイド | 公益社団法人 日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)