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サイバーエージェントによる町田ゼルビア改称問題


いま話題の、サイバーエージェント(以下CA)のFC町田ゼルビア買収に伴うチーム名改名問題。
正直なところ買収が決まった時点で予想された事案であり、納得できる理由があるのであれば最悪致し方ないのでは…と完全に対岸の火事として捉えていたのですが、TL流れてくるツイート等々を見る限り疑問点がチラホラ。
長時間の動画を見て検証するほどの余力はありませんでしたが、ありがたいことに文字起こしブログを拝見したので、それを読んだ上で今回の問題の根源と個人的所感をば。


FC町田ゼルビア・サポーターミーティング

www.rrr3k.com

 

 


①本プロジェクトの正当性はどこにあるのか?なにを目指しているのか?

まず、今回のサポーターズミーティングでフロントとCA(もとい藤田晋社長)の訴えたかった要旨としては「町田からは出ていかない。町田にある限り町田のクラブである。だからこれからの変革を受け入れてほしい」ということでしょう。
チーム名の改称やマスコットの追加(?)等々のリブランディングを実施することで従来のFC町田ゼルビアではなくなってしまうように見えるが、会社名にゼルビアは残すし、ゼルビアの名をコールしても構わんし、町田のクラブであり続ける限り我々は町田なのだと。


この時点での疑問点としては『正当な変革なのか?』『痛みの代償はなにか?』である。

 

町田にある限り町田ゼルビア町田ゼルビアなのだというお題目。これを言っていいのはサポーター側なのではないだろうか?
CAやフロントがこの論理を押し通すのは強引すぎやしないか。

なぜなら、まずもって今回謳っているリブランディングはリブランディングとは言えないからだ。
スポーツビジネスにおけるリブランディングとは、これまで紡がれた歴史やストーリーを尊重した上で新たなエッセンスを加える。自らを再定義する。これこそがリブランディングではなかろうか。
近年の事例で言えば、福岡ソフトバンクホークス・横浜DeNAベイスターズFC今治などがオーナーの変更に伴いエンブレムやマスコットの変更等全社的に抜本的な改革を行ったが、いずれも歴史を重んじた上での話であり、スムーズな体制移行とその後の興行成功に繋げている。

一方で、今回のCAの謳うリブランディングではまず「ゼルビア」の名を放棄し、その歴史にピリオドを打つことになる。これはリブランディングというよりもスクラップ&ビルドとして映るし、ソフトバンクDeNAによるプロ野球団買収よりも球界再編問題における近鉄バファローズ消滅とオリックスとの合併・楽天野球団新設を思い起こす。


さらに付け加えると、会の途中で、今後のビジョンとして「町田から世界へ」「5年後のACL優勝」という、競技面で優秀な成績を収めるぞ!ビッククラブになるぞ!という構想を発表している。そして、このビジョンの実現の為にリブランディングによる価値向上・収益増加が必須という筋道で語っている。
その一方で、アクセスや設備に問題を多数抱える野津田陸上競技場の継続使用の意向を示したり、世界的スター選手を多数抱えるヴィッセル神戸のような選手補強はできないとも話している。


え??

5年でACL制覇だとか、そのビジョンに則ってクラブを大きくしていきたいのであれば、野津田からのホームスタジアム移転。もっと言えば町田からの移転は少なくとも視野に入れておくべきであろう。実際のケースとして、ジェフユナイテッド市原・千葉の事例もある。

抜本的な変革を唱えるのであればそこまでやっても全然良い。是非はさておき、それならばゼルビアの名を捨てる整合性は今より出てくる。痛みを伴う正当性が。なんでそんな中途半端なんだ。


現状の説明では、「チームを強くする」「その為にチーム名を変える」「名前にトウキョウを付け加える事で町田以外からの資本も募る」「でも町田には残るから町田のクラブであることには変わらないよ。許してね」という都合の良すぎる言い訳にしか聞こえない。
トウキョウの名前を冠しただけで東京全域へのマーケティング展開がするというのはお花畑にもほどがあるだろう。それにその理論なら東京町田ゼルビアとかでもいいはずだ。


本気でビッククラブを目指すのならば、会終盤のサポーターからの質問でも上がっていたが、どれほど現状からの改善策が打ち出せるのか。自らがどれほど資本投下できるのか。どれほど外から資本を引っ張ってこられるのか。
その筋道を示して正当性を打ち出すべきではないか?

それならばまだ、勝利という禁断の果実欲しさに、歴史とプライドを捨てた現フロントの判断に同情することもできたのに――


全体像と実現可能性が抽象的なままに、この会に至ったのはどういうことなのだろう。
ただ単に、まだなにかを真意を隠しているのか。単純に全く計画の詳細を詰めきれていないのか。できることなら前者であってほしいが…。


ブランディングしないと会社の資本を投下できないという説明もごもっともであるが、いくら出すのか、何をするのかわからないことには「それならば許そうではないか」という心情にはならないでしょう。
痛みを受け入れてほしいという割にはユーザーへの還元がなんなのかは示されていない。何度もいうが実に都合がよすぎる話ではないか。

それどころか、CAの中でコンセンサスを得られていない雰囲気すら漂ってくると、このゼルビア買収劇は一体何を目的としたものなのか本当にわからなくなる。

 

ライザップのようにシナジー効果を期待しているのか?
DeNAのように収益を期待しているのか?
ジャパネットのように企業メセナの精神なのか?
岡田武のように己の信念と理念の実践を通じてホームタウンとこの国を変革したかったのか?

一体CAは何がしたいのか?
町田をビッグクラブにしたその先に何があるのか?
抽象的なビジョンと、そのビジョンが実現するとは思えない半端な覚悟しか示せないのか?
(そしてそもそも町田である大義はあったのか?)

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これでは人の心もスポーツビジネスも舐めすぎではないだろうか。
対岸の火事と見ていた私まで膓煮えくりかえっている。

 


②既存ファンをノイジーマイノリティとして切り捨てるか否か

会の終盤。質疑応答において1人のサポーターの涙ながらの訴えが印象的であった。


既存のサポーターの声を受け入れる気はないのか。切り捨てるのか。
これは今後このプロジェクトの成功可否に関わる重要事項である。

悲しいが、はっきり言って既存の固定客5千人(仮)を切り捨てても数の問題で言えば痛くはないだろう。
CAの謳うリブランディングによって新たに5万人のファンを獲得できるのであれば、5,000<50,000なのだから断行しても差し支えない。

 

だが、あくまで数字上の話である。
1度簡単に切り捨ててしまえば、今後いかに素晴らしいストーリー築き上げようと、「この興業団体はいざとなればリセットすることをも厭わない」という懸念と前歴を消すことはできない。
ファンの声を無視するようなクラブが、リブランディングとやらで新たな価値を創造できるとは思えない。


スポーツビジネスは決して特殊なものではないが、特徴的な点はいくつかあり、その1つとしてサポーターの存在があげられる。
ショービジネスにおける演者と観衆の関係は、価値を提供する側と価値を享受する側に簡単に仕分けすることはできない。
歌舞伎・大相撲・宝塚・プロ野球・アイドル・そしてJリーグ…いずれも観衆はただ単に傍観するだけでなく、時としてその場の演出やコンテンツの価値向上に一役買うことがある。キャストの一員となる。良くも悪くも。

特にスポーツ。中でもサッカーの場合はサポーターとチーム・クラブの距離感が密接であり、そのコントロール、サポーターをブランディングすることこそが肝とも言える。
語弊を恐れずに言えば、忠実で優秀なサポーターを作ることが大事だ。


だが、0を1にするフェーズは極めて難しい。
スタジアムの雰囲気づくり、ひいてはサッカークラブがもたらす価値を共に創造しているサポーターを無下に切って、仮に『官製サポーター』主導でリスタートしてうまくいくことはまずないだろう。
無機質なショーに熱狂は生まれない。となれば、そんなスタジアムに通う意義は薄くなる。

ファンを増大しなければならない事を自覚しておきながら、既存のコミュニティから発せられた声に耳を傾けず切り捨てるような行為に至るのは何故なのか。まずもって、せめてポーズだけでも取るべきだった。
会の後に懇親会を開いて話を聞く姿勢は買うが、一旦伝播したマイナスなイメージは大きい。この辺りも含めて準備不足感が強すぎる。一体何をしていたのか。どこまでが計算の内なのか。やっている事が現在の日本国内の潮流と真逆なのだが勝算は果たしてあるのか。

 全容が見えなさすぎる。

 

 


最後に

個人的なまとめとしては、①フロントは「FC町田」の歴史を残しつつ体力のある企業に手放したかった。②CA(もしくは藤田社長)は東京にあるJ加盟クラブが欲しかった

そうしてこの両者がディールした結果、サポーターの声など無視した互いに都合の良い着地点に落ち着いた。というところではないだろうか。


今回の件に関してはCAに憤りを強く感じるが、ゼルビアの増資分として11億円ものお金を費やしてサッカーファミリーに加わったこと自体は好ましいと思っていたし、リスペクトの念もあった。スポーツビジネスに興味のあるものとして、面白いことになりそうだなという予感もあった。
故に、今回のような実にお粗末な計画発表は残念である。そんなもんなんか、と。

 

Twitterにも投稿したが、今回の初手の誤りは大変致命的であり、現状テーブルに並んでいる材料から判断する限りは、ウルトラCがないとプロジェクト成功はないと言える。

 

ゼルビアの名を消すなという情の話ではなく、何がしたいのかよくわからないプロジェクトを成功させる為に、やれる事はまだ沢山ある。
それがどれだけできるのか見せてほしい。

 

できないのであれば、その時は即刻退場すべきだろう。

ホワイトナイトのように扱われているが、別にJ1ライセンスがなくともサッカークラブは死にはしない。むしろライセンスの為に魂を売ることこそが自殺行為ではないだろうか。
王者でなくとも人生は謳歌できる。それはサッカークラブも同じである。

 

神戸や長崎のように経営的な生き死にがかかってるのならわかるが、少年サッカーの町の象徴である町クラブが捨てなくていいアイデンティティを捨てて下手な勝負打つのは僕もクソダサいと思います。

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P.S. ブログはAmebaではなく京都サンガF.C.のスポンサーである「はてな」様で書こう!