+1 プラスワン

-劣悪なスタジアム環境の中で似た者同士の対決-【2024天皇杯】清水エスパルス-京都サンガF.C.

 

土砂降りを通り越してプチ災害級の雨。

 

まず試合の感想から。概ねツイートした通り…

 

 

 

 

にたものどうし

前半は6:4〜7:3くらいの比率で清水のゲーム。

守備時はすんなり自陣に撤退する清水。それによりボールを持たされる京都。基本的にこの構図となる。

 

清水は、プレッシングの強度・速度共に、J1勢との対比で言えば鈍い。敷かれたブロックも決して強固とは言えず、正直上から見ていると人が並んでるだけに感じられる。そこにポジショニングの機微はあまり感じられず。ボールを奪い取る"網"にはなれていない様に見える。

 

しかし、京都はボールを持たされると何もできないチーム。前述の通り、清水が鈍いので、奪われる危険性は低く、DFラインの並びも宮本・松田・喜多・鈴木冬一とボールを扱える陣容故に、いつもよりはマシではある。だがアタッキングサードへ危険な入り方ができない。

内側へ絞りST化するWGや一美へ楔のパスを入れるが、そこからワンタッチで展開(=チャカチャカ)しようとするから噛み合わずにボールロスト。あるいは、受け手が完全に止まった状態でボールを要求して、配球側は出すに出せない。京都が酷すぎたので、清水の守備も酷く見えた側面はあるかもしれない。

ああそうだ。一美と清水のCBのデュエルは概ね一美が勝利していた。その為、京都はカウンターで攻め込まれた後の陣地回復(ゲイン)が比較的できていた。これがJ1相手だと中々できないのだが。

 

また、時折WGが内から外への斜めのランニング+主に冬一からのロングボールで、清水右SBの裏のスペースを取りにいくのだが、これは基本的にラインを割って相手ゴールキックスローインになってしまう。通ったとて、受け手がポツンと一軒家状態であり、カバーへ走った清水DFが余裕をもって対応。

相変わらず球蹴りというほかにない酷いクオリティ。正直、清水のあの守備のクオリティ相手でも攻めあぐねるのは恥ずかしい

 

京都がボールを持てる状態の時間が長く、かつ清水のビルドアップも全く形が何も無い状態。なので、京都が拙いボール運びで前線でボールを失う⇒奪い返しに行く⇒清水も交わすことができないからGKへ戻す⇒蹴る⇒京都が2CB・金子を中心に回収する⇒振り出しに戻る…という地獄のようなどっちもどっち展開が繰り返される。まさに泥仕合

 

 

それでも清水がゲームを優位に進めたとするのは、カウンターの質。

京都はボールロスト後に即時奪回を狙うが、平戸・金子で捕まえきれず反転フリーで進撃を許してしまうシーンがちらほら。あるいはドウグラスタンキへの長いボールから、スピードアップを許してしまう。こうなると縦に速い攻撃が京都ゴールに襲いかかる。

特にキーマンは乾。時折、豪雨も襲う中で抜群のボールテクニック。見事なトラップとパスでトーンダウンさせることなく清水の鋭いロングカウンターを演出する。流石のクオリティである。

 

 

対して京都も最後の局面で身体を張った守備で凌ぐが、前半35分に失点。

流れの中ではなく、清水右サイドでのFKから。右足キッカーのアウトスイングのボールを、カルリーニョスジュニオがニアで綺麗に合わせて先制。

位置がミドルゾーン寄りだったので、おそらく京都はゾーンで守る形になったと思うが、見事にやられてしまった。23年新潟戦(H)の失点みたいな感じ。

 

前半はこのまま0-1で終了。

 

 

後半。京都は左WGの安齊を下げてマルコトゥーリオを投入。マルコは右WGへ、平賀が左WGへ回る。

曺貴裁監督は「ハーフタイムの修正が」みたいな発言をしているが、実際の現象としては特に大きな変化は見られなかったと思う。一美がカットインからシュートを放つも防がれるなどいつも通りの京都であった。

 

大きく動いたのは61分の原大智と川﨑颯太の投入。これにより劇的に京都の攻撃の物量・質は変化した。

自由に動き、ボールを持てば軽々と清水ディフェンスを抜き去っていく原。IHに追いやられて窮屈さが目立った宮吉と異なり、ボールを刈るだけでなくグングンとドリブルで前へ運べる良い時の川﨑。二人のダイナミズムによって、京都の攻撃が活性化する。

 

66分、川﨑の見事な推進力から得たCKを原がファーで合わせて同点。5分でスコアをイーブンに戻す。原は公式戦3試合連続のゴール。

 

その後も二人が牽引して勢いづく京都。完全に流れを掌握すると、75分に川﨑起点の流れから平賀が思い切りよく脚を振って同点。グラウンダーのシュートは清水GK沖に触られつつも、勢いが死ぬことなくネットへ転がっていった。

 

 

こうなると止まらない。原がもう無茶苦茶で、ドリブルで抜いたと思ったら、左サイドへ流れてクロス。フリーロール。結局はこの使い方になるのか。それで良いのか。とは思うものの、もう清水の選手は誰も原を止められない。やはり次元が違う。

 

時計の針は進んでいく。マルコトゥーリオの直接FKはポスト直撃で惜しくも決まらず。片や清水も、長いボールやクロスから京都ゴールへ迫るが、間一髪で防がれる。オープンさのある展開だが、より馬力のある京都が流れをキープする。

 

後半終盤に差し掛かり、そろそろ利口に時間を費やしてほしいが…相変わらず試合運びは拙い京都。コントロールができない。止まったら死ぬ魚。

清水も、高校3年生の西原源樹が強引なドリブルで京都右SB宮本に突っかかるが、カバーリングに入った川﨑に止められるシーンが。若いねえ。川﨑が完全にカバーに入っていたのに抜きにいった。自分の実力を試したかったのかもしれない。戦術的には間違いかもしれないが、逆転されてビハインドの展開を覆しにかかる意味でも完全に無駄ではない勝負。若かりし頃の駒井善成さんを思い出しました。

 

で、そんな互いにゴチャゴチャした流れの中で、またもや川﨑の推進力が発揮されてゴール前で原にボールが渡る。中央で受けた原は対面をキックフェイントの形で上手く剥がし、左足シュートでこの日2得点目となるダメ押し弾。

 

京都が清水に力の差を見せつけ、ベスト16進出を決めた。

 

 

 

清水笑うな行く道だ…?来た道だ…?

京都は組織の質で上回っていた訳では無い。むしろ前半は押されてすらいた。

しかし、「型破り」ではなく「形無し」で、強度(notインテンシティ)やメンタルといった要素に傾向した似た者同士の対決故に、原大智と川﨑颯太の別格のクオリティによって拮抗していたゲームバランスが壊れた。

 

京都としては、J1での生活が3年目となる真価を見せつけたと言えるかもしれない。原の様なチート級の選手を外部から獲得することも、川﨑の様なアカデミー育ちでA代表選出まで経験したタレントをプロテクトをすることも、J1でなければ叶わない話だったからだ。また、90分トータルで差を見せつけた強度・圧の差も同様。考えられない話だが、京都が清水相手にJ1クラブとしての格の差を見せつけたのである。(但しフットボールの質の差ではない…)

 

一方の清水にとっては苦しい敗戦。J1の中でも下位に沈む京都に力負けした現実は、現政権のチーム作りと近年のフットボール面の歩みが順風満帆ではないことを物語る。

ボールをクリーンに運べるでもない。コンパクトに守れるでもない。乾を筆頭にタレントの質でオープンな展開を制することができれば勝機があったかもしれないが、鋭いカウンターは前半の数本のみ。残念ながら京都を上回る要素やスペシャルな強みは見受けられなかった。「無味無臭」と評した通り。

 

京都の営業収入は2022年に初めて30億円台を突破し、32億88百万円。翌23年に33億93百万円。チーム人件費は17億6百万円→18億38百万円。

清水の営業収入は、降格を喫した2022年で50億87百万円。2023年(J2)で51億1百万円。チーム人件費は22億9百万円→22億46百万円。

人件費ベースで見ると4億円程度の差なので、リーグ戦でも一発勝負でもひっくり返されることはあるだろうが、これほどクラブの経営規模に差がある中で、カテゴリーが逆転し、直接対決では力負けというのはショッキングかもしれない。

 

ただ、今回は原や川﨑のような強力な"個"あっての勝利であり、彼らが居なくなればどうするのか…?

そして京都より経営規模が大きいながらも近年低空飛行を見せる清水であるが、その低迷の要因の1つと言える大熊GMが今トップに立っているクラブと言えば…?

 

京都・清水、共にどんなフットボールをしたいのか?そのフットボールの質は正しく極められているのか?

アイデンティティやディティールが感じられない試合であった。これではいつ何時両者の立ち位置が変わるか…いや一緒に沈んでしまうかどうか。共に悩みがつきない試合だったと言えるだろう。

 

 

 

新スタジアム

最後に、スタジアムの環境について。

 

今回で2回目の訪問であったが、間違いなく言えるのは、やはり日本平プロスポーツ興行には明らかに適していない。

車での来場が主体となる貧弱な交通アクセスは、高齢化が進む既存ファン層と開拓したい子供〜若年層の脚を遠のかせる。アルコールを含めたフード販売にも支障をきたし、カーボンネットを謳う社会全般およびリーグやスポンサー企業の動きとも逆行する。

市街地からも遠く、軌道系交通網の弱さと相まって経済波及効果も乏しい。私は年に20〜30回程しか試合の無いJリーグで、「アウェイサポーターによる経済効果」を口にするのは好きでは無い。そのロジックが効力を発揮するのは、観光資源が乏しい・辺鄙等の理由で域外からの交流人口が少ない地方都市ぐらい。あるいは全盛期の浦和くらい大挙して初めて言えると思う。だが、19時試合開始で静岡駅に着いたのが23時。エスパルスのスポンサーでもある京昌園を含め飲食店はラストオーダーを終えてクローズ中。これではさすがに金は回らない。回遊性が低すぎて勿体ない。

観戦環境そのものも、スポンサー客単価の向上が見込めるメインスタンドには屋根がほぼなく、当然スタジアム全体の屋根カバー率は低い。ベンチシートも多く、VIP層をエスコートできるビジネスラウンジも無い。陸上トラックの無いサッカースタジアムと言えども、30年前の古臭い観戦環境では、施設と使用するサッカークラブの顧客満足度と収益性の更なる向上は見込めない。

 

 

だが、エスパルスはアウェイ側の動員が望めないJ2にも関わらず、この環境で平均入場者数1万4千人超を誇る。最新鋭のフットボールスタジアムを誇る京都よりも上だ。

この国の中では間違いなくサッカーが根付いている静岡という街。その中で大きい資源として息づいている。

静岡市の人口は70万人。スタジアムの収容人数も19,594人と決してハコは大きく無いが、それでもクラブの営業収入は50億円超を誇る。クラブが持つポテンシャルはとてつもない。京都の諸般の事情からすれば羨ましい話である。

 

 

清水のスタジアム整備計画は、2013年頃に東静岡駅の北側空き地に新スタジアム整備案の機運が高まったが、10年以上経った今もなお大きな進歩はないと言わざるを得ない。

川勝前知事と田辺前市長の口だけ首長の元では何も前進せず、現在検討が進む清水駅東側に広がるENEOS精油所跡地も、民間所有の土地なだけに依然ハードルは高い。



「サッカーでまちづくりを」とか「新スタジアム整備を」というムーブに対して「そんな効果はない」と言う人間は多く居る。また、こうした波風を立てる事を嫌ってスタジアム整備に関して積極的に発言をしないクラブも多い。

だが、そういう人間の言う事を気にする必要は微塵もない。これまで成功例と言えるケースが無かったのは、計画そのものが不完全であったり、多くのJリーグクラブの経営が杜撰であり、口だけで行動の伴わない本気度が足りない迷惑者が多いだけの話である。

当たり前のことを、ど真剣にやりきる。夢を口にし続ける。さすれば必ず道は開かれるのである。短期的な成果ではあるが、少なくともサンフレッチェ広島は今まさに体現している。悪しき前例たちなど蹴散らしてしまえば良い。

 

それでも古くからの顧客基盤と地盤を有する清水ならば、私は素晴らしいスタジアムの完成にたどり着けるはずと思っている。

新スタジアムができて経営規模がさらに大きくなれば、京都にとっては脅威であるが、Jリーグの価値は一段と高まる。一人のサッカーファンそして日本人として、素晴らしいスタジアムを核にエスパルスが発展する事による静岡の活性化を願っている。

そして頼むから、バケツをひっくり返した様な雨の中で観戦せざるを得ない経験を早く撲滅しておくれ。眼に向かって雨が飛び込んでくるような中ではさすがにしんどいのだ。

 

See you soon…!