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【幻のスタジアム②】日本初の複合型サッカースタジアム構想 浜北スタジアム

ふっと湧き出てふっと消えていったスタジアム。計画途中で凍結されてしまったスタジアム。無事に竣工したスタジアム計画の中にあった別案。

そんな我々の目の前に姿を現すことなく消えていった"幻のスタジアム"を掘り下げてみよう…という気まぐれ企画。

 

第2弾は静岡県『浜北スタジアム』です。



日本初の複合型サッカースタジアム構想

近年、日本サッカー界においても、「複合型スタジアム」というワードが叫ばれるようになってきました。
スタジアムに商業施設などを複合化させる発想。それこそが複合型スタジアム。
ドーム球場とホテルや遊園地が一体となった東京ドームが好例ですね。

ここでは省略しますが、複合型であれば必ずしも良いかというとそういう訳ではなく。クラブ所有ならば良いという訳でもなく。

「デュエル」等、ピッチ内の事象に関するキャッチーな言葉同様に、スタジアムに関しても定義や意味を掘り下げられないままワードのみが先行している気がします。

しかし、支障なく無事に実現する複合型スタジアムがあれば、それは大変夢のあるプランである事は間違いないでしょう。いまだかつて日本に大規模な商業施設やMICE施設などを備えた複合型スタジアムは存在していません。

でも実は、25年前の静岡にはそんなプランが存在していたのでした。



Jリーグ創設と静岡サッカー

1993年のJリーグ開幕直前のこと。当時はJリーグクラブの誘致合戦が激しく、「99.9999%無理」と言われた鹿島アントラーズJリーグ加盟がカシマスタジアム整備&クラブハウス整備によってに実現したように、自治体が環境整備に多額のお金を費やしてでも誘致したいという気運があったとかなかったとか。
事実、W杯や国体も影響し、日本のスタジアム環境が著しく改善された時期でした。(負の遺産も多くありますが)


ただ、サッカー王国 静岡は少し異なりました。

Jリーグ開幕以前の静岡県には、Jリーグ入りを狙えるチームが5つ存在していました。
県西部に本拠を構えるPJMフューチャーズ(浜松地域)・本田技研(浜松地域)・ヤマハ発動機(磐田)の3つと、県東部に本拠を構える清水FC(旧 清水市)。間に挟まれた中央防犯サッカー部(藤枝)。

しかし、PJMフューチャーズはJ加盟を目指して鳥栖へ移転し、後の鳥栖フューチャーズサガン鳥栖へ。本田技研浦和市からの誘致を断り地元浜松に拘るも、J加盟までは進展せず。ヤマハ発動機は1年後にジュビロ磐田として加盟は果たすも、いわゆる「オリジナル10」、J初年度からの加盟とはならず。中央防犯サッカー部藤枝ブルックスとしてJ加盟を目指すも、スタジアムの問題から福岡へ移転し、現在のアビスパ福岡に。


複数候補はいたものの、結果的にJリーグへ加盟したのはヤマハ発動機(ジュビロ磐田)と「市民クラブとして理念に適している」とされ初年度から加盟の清水FC(清水エスパルス)の2つのみ。誘致や加盟に成功した他都市と異なり、むしろ数を減らしてしまいました。もっと言うと、当時はヤマハと清水FCが合併する可能性もありましたからね。

複数居たが故に、オール◯◯とは行かなかったのかもしれません。(あるいはかつてのイングランドのように誇りが邪魔をしたのかどうか)
現在も、浜松市政令指定都市の中では数少ないJリーグ空白地帯※となっています。(※浜松市セレッソ大阪ホームタウンである堺市の2つのみ)


浜北スタジアム構想

こうした状況下で好機と見たのか、動きを見せたのが浜北市※でした。(※後に浜松市と合併)
日本初の複合型サッカースタジアム 浜松スタジアム計画を掲げ、ジュビロ磐田誘致に動いたのです。


当時としては画期的かつ壮大な計画で、浜北市平口地区に3万人のサッカースタジアムを核にプール機能や体育館、川を挟んだ向かいに大型商業施設を一体的に整備するというものでした。
大型商業施設はイオン浜北ショッピングセンターと銘打ち、イオンが事業主体。そこに西武百貨店が出店するものだったようです。売り場面積は40000㎡予定*1

冒頭でも述べましたが、Jリーグのホームスタジアムにおいて、今日まで大規模商業施設を併設した複合型スタジアムが無いことを考えると、この計画の大きさと先進性がわかるかと思います。そもそも複合型と言えるスタジアムが神戸とカシマしかないですしね。
(複合型の定義が曖昧という話をしましたが、私はスタジアム本体に欠けている機能を補う付帯施設との一体化=複合型スタジアムだと思います。神戸はスタジアム内にて大規模なスポーツクラブとレストランが運営されており挙式披露宴も開催可能。カシマは大規模なスポーツクラブと診療所が運営されています。ただし、MICE施設のようなスタジアム本体と機能が若干被る場合でも複合型だと思いますし、逆に豊田スタジアムは「複合型なのか…?」と思ってしまうので、規模も影響してくると思います。スポーツを観る場であるスタジアムの中にジムを置く・社交場にレストランを置く。ただのその程度ならば当然じゃないかと。)


言ってみれば、エキスポシティと市立吹田サッカースタジアムが一体化運営されているよう施設と考えればよいかもしれません。

「日本のサッカースタジアム 今日そして明日」内に掲載された各社広告を見ればわかるのですが、実は日本にも昔からサッカースタジアムをより有効活用する発想はあったんです。佐藤工業やCHIYODAの広告で謳われている文句は、まさに現在のスタジアム・アリーナ改革そのもの!
バブル経済の崩壊と同時に淘汰されてしまったが故に停滞が起きてしまったのか。


話を戻します。浜北市自体がJR東海道線からかなり北部側へ位置しており、軌道系アクセスの面では難がありますが、東名高速道路からの近さと比較的車社会である静岡の特性+大規模商業施設による滞留時間の長期化。また、よくある郊外型ショッピングモールとして、車での来場が考えられていたのでしょう。
2010年代現在においては陸の孤島的扱いを受けそうな立地ですが、当時は問題なかったのかもしれません。


しかし、壮大な計画を推進していた市長の贈賄容疑→逮捕により、このスタジアムも幻のスタジアムの仲間入りなってしまいました。

計画凍結/縮小までの詳細については、この方が大変丁寧にまとめられていますので、私が何か言う必要はないでしょう。
1つだけ述べておくと、スタジアム本体のイメージ図等が見つからないので、おそらく設計段階までには至らなかったものと思われます。ジュビロ磐田の移転ありきの話ですし。
matinote.me



予定地のいま

実際にスタジアム予定地となった地区に訪れてみました。

スタジアム計画は幻と化したものの、商業施設は当初より規模を縮小して完成。サンストリート浜北という名のショッピングモールが存在します。
スーパー部分には西友が入っており、シネコンも存在します。The郊外型ショッピングモールといった感じで、実際に買い物してみると規模縮小という割には大きい。かなり見て回るだけで時間が潰れました。
サンストリート浜北|浜松市浜北区の大型ショッピングセンター

川を渡ると公園部分に。スタジアム整備はなくなりましたが、浜北平口サッカー場というグラウンドが整備されています。
ジュビロの育成組織もかなりの頻度で利用しているようです
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もしここに複合型スタジアムが整備されていたら。ジュビロ磐田が移転していれば。
ifの世界に浸るのはあまりよろしくないかもしれませんが、たられば話ほど面白いモノはない。
また、この計画がポシャったから、日本初の大規模な複合型スタジアム整備は今治か長崎のどちらかになりそうな訳で。面白いですねえ。






追伸
HONDA FCの拠点である都田サッカー場から比較的近く、都田やヤマハスタジアムへ車で遠征される際に寄ってみてはいかがだろうか。目の前にはさわやか浜北店もあるし。

ではまた

*1:1996年発刊「日本のサッカースタジアム 今日そして明日」参照