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移籍金とは一体何なのか? 〜近時の京都サンガF.C.選手の移籍事例と移籍金の関係性〜

 

プロスポーツ、特にサッカー界では「移籍金」というワードを耳にする事は多い。

先般、大谷翔平選手のMLB/ロサンゼルス・ドジャースとの10年総額1000億円超の大型契約が話題となったが、この契約金とは何が異なるのだろうか?

 

今回は、選手の移籍に関するお金の動きから、近事の京都の移籍事例を考える。

 

 

 

 

移籍金=違約金

結論から述べると、所謂「移籍金」とは選手に支払われるお金ではなく、移籍元と移籍先の間で交わされるヘッドハンティングに伴う補償金の事である。

大谷翔平選手の契約金は全て給料(年俸)のことだが、移籍金は選手の懐に入るものでは無い。

 

例えば、京都サンガF.Cに所属するA選手がFC東京へ移籍を果たしたとしよう。この場合、移籍元は京都で、移籍先はFC東京の構図となる。

この時、実はA選手は移籍元:京都と締結した3年契約の内2年の契約を残していた。本来であれば残り2年は京都に所属するはずだったが、移籍先:FC東京が「A選手が戦力として欲しい。京都さんには○○円払うから引き抜かせて欲しい」「A選手、君が必要だ。年俸○○円の3年契約でどうかな?」と持ちかけて、クラブ・選手それぞれと合意に至った為、新たな契約が成立した。

この時、FC東京から京都に支払われる補償金こそが所謂「移籍金」である。

 

移籍金の金額の決まり方については、過去は算式が決まっていた時期があったが現在は撤廃されている。(この影響で京都は大損をした。この辺りはボスマン判決等話が長くなるのでしないが、1つ言えるのは我々は1億〜4億円強の移籍金を他クラブに振る舞い、獲得した選手を悉く0円で市場に放出する慈悲深さがあったとでも言おう)

 

移籍補償金の金額は、移籍元クラブと移籍先クラブの合意によって決定する。」とされており、さながらオークションや入札、せりの様に相対で移籍金の金額は決まる。その為、移籍元のクラブにとって必要な選手であればあるほど値上がりしやすく、また移籍先候補が複数あれば獲得競争により値上がりしやすい。

最初に紹介した久保建英選手の移籍金金額のニュースも、彼が欧州トップクラブも欲する人気の人材であるが故に推定価格が上昇していると読み解くことができる。

 

(但し、選手⇔クラブ間の契約内に特別な条項が盛り込まれる事もあり、人気銘柄や契約期間を残しているからといって必ずしも移籍金が発生する訳ではないことも抑えておかないといけない)

海外移籍を目指す田中に対し、C大阪は今回、その際の移籍のハードルを下げた契約にしたとみられる。それらの材料が重なり、C大阪が争奪戦を勝ち抜く要因となった。

【C大阪】札幌の元日本代表DF田中駿汰を獲得 金銭面で圧倒的不利も長年の評価などで射止める - J1 : 日刊スポーツ

なぜ久保建英「ゼロ円移籍」をFC東京は認めたのか? 代理人が明かす移籍市場の裏側 - REAL SPORTS(リアルスポーツ)| スポーツの「リアル」を伝える

 

 

移籍金の種類

移籍に伴うお金の動きにはいくつか種類がある。サッカーは全世界で普及しており、移籍と移籍にまつわるお金に関するルールは基本的にはFIFAの規則に定められているが、同一国内の取引については一般的にそのFA内のローカルルールが適用される。

なので、Jリーグ(や国内の選手)関連の移籍について考える際は、FIFAが公開する「Regulations on the Status and Transfer of Players」(通称:RSTP)と、JFAが公開する「プロサッカー選手の契約、登録および移籍に関する規則」のそれぞれ最新版を基準に判断しなければならない。日本国内の移籍であればJFAのルールを、国外クラブが絡む場合はFIFAのルールを参照する必要がある。

下記の規則については2023年12月31日時点で最新の規則であり、シーズン毎に都度更新される事がある為注意願いたい。

FIFA publishes third edition of Commentary on the Regulations on the Status and Transfer of Players

プロサッカー選手の契約、登録および移籍に関する規則

各種規則等 | JFA | 日本サッカー協会

 

 

移籍補償金

先ほど解説した所謂「移籍金」がこれに当たる。

移籍元クラブと契約の残る選手のクラブ間移籍(完全移籍)について、ヘッドハンティングの代償となる補償金で、その金額は移籍元クラブと移籍先クラブの合意によって決定する。

 

さて、ここからは東京ヴェルディの強化部スタッフである齋藤祐太氏のnoteを見てもらえれば事足りるが、一応簡潔に書いておく。

選手移籍に伴う「3つの育成金」(TC/Solidarity/トレーニング補償金)|Yuta Saito Jクラブ強化部/元コンサル

 

 

連帯貢献金(SOLIDARITY CONTRIBUTION)

移籍補償金の発生する国際移籍が行われた際に、移籍補償金の一部から、移籍した選手が12歳〜23歳の暦年の間に所属したクラブが請求できるお金=これが連帯貢献金である。

例えば、京都サンガU-18出身で大学経由でJリーグクラブ:Aとプロ契約を結び、その後ドイツ1部のクラブ:Bに移籍補償金1億円で移籍した選手Xが居るとする。

この時、Xが15歳〜18歳の3年間所属していた京都は、移籍金1億円の内1.5%を請求する事ができる。

 

移籍補償金の中から請求できるものであり、移籍先クラブが追加で負担する経費ではない。

 

 

レーニングコンペンセーション(TRAINING COMPENSATION)

・初めてプロ選手として登録された場合

・23歳の誕生日を迎える暦年の終わり迄に2つの異なるサッカー協会間で移籍が行われた場合

 

1. Training compensation is due when:
a) a player is registered for the first time as a professional; or
b) a professional is transferred between clubs of two different associations(whether during or at the end of his contract) before the end of the calendar year of his 23rd birthday.

に育成の代償として支払いされる補償金である。移籍補償金とは別で支払われるものであり、移籍補償金が発生しない国際移籍(所謂0円移籍/フリートランスファー)でもトレーニングコンペンセーションは支払われるべき補償金とされている。

支払い額は"12歳から21歳までの在籍期間×新たな契約先のリーグ毎に定められた基準額"にて決まる。

 

また、Yクラブに所属していた選手Xが、21歳の年にAクラブに移籍→その後、22歳でBクラブに移籍した場合、Bクラブへの移籍についてYクラブへトレーニングコンペンセーションが支払われる事は無い。

すなわち23歳の誕生日を迎えた暦年中に2度目の国際移籍が実現しても、請求が可能なクラブは直前に所属していたクラブのみ(上記の場合Aクラブのみ)に限られているということである。

If the player then goes on to be transferred internationally to a third club, as a professional player, before the end of the calendar year of their 23rd birthday, only the player’s last club prior to the international transfer will be entitled to claim training compensation – none of their previous training clubs will be entitled to training compensation from this second transfer.

 

 

レーニング補償金

いわば日本国内版トレーニングコンペンセーションである。

FIFAの定めるルールと少し異なっている点は、発生のトリガーとなるタイミングである。実質一緒とも言えるが…

7-3 トレーニング補償金(プロからプロ)の請求権

当該選手の23歳の年度における所属リーグの最終の公式試合の日までに移籍が行われる場合に限り、 移籍元クラブは、移籍先クラブに対し、トレーニング補償金(プロからプロ)を請求することができる。

 

 

 

実際の移籍事例

ここからが本題である。直近の京都の移籍事例を移籍金の観点から考えてみよう。

 

原大智(スペイン2部/アラベス→京都)

移籍金:推定2億2千万円(最大)※移籍リリース時の為替レート・1ユーロ=157円35銭にて換算

 

2023年夏、彗星の様に現れた救世主。2025年夏までアラベスとの契約が残っていた原は、京都への加入を選択した。契約が残っていた為、クラブ間で移籍補償金の支払いが為されたと推測される

スペイン地元紙の報道によると、アラベスは23-24シーズン開幕前の移籍市場にて原とフランス人DFのFlorian Lejeuneの売却により390万ユーロの収入を手にしたとされている。

Temporada 2023-24:

6,4 millones menos por televisión que en la 2021-22 El presupuesto del presente ejercicio está cifrado en 64,3 millones de euros, 7,6 menos que en la última temporada en Primera (71,9), la 2021-22. La explicación está en los ingresos por los derechos televisivos, que han menguado para todos los clubes debido, entre otras cosas, a los nuevos contratos del mercado asiático.

Si entonces se iban por encima de los cincuenta millones (50,1), ahora están en 43,7, casi seis y medio menos. Una circunstancia que el Alavés ha podido equilibrar con 3,9 millones en concepto de traspasos que ya ha ingresado por las salidas de Florian Lejeune (Rayo Vallecano) y Taichi Hara (Kyoto Sanga).

El Alavés, un club vendedor sin necesidad de exportar | El Correo

 

また、移籍情報webサイトとしてお馴染みのtransfermarktによると、Florian Lejeuneの移籍金は推定250万ユーロ。その他の退団選手については、フリートランスファー(0円移籍)orレンタル移籍満了or移籍金金額が不明と報じられている。

https://www.transfermarkt.jp/deporutibo-arabesu/transfers/verein/1108/plus/?saison_id=2023&pos=&detailpos=&w_s=

 

移籍金の額が不明とされている原とMamadou Syllaの内、後者は契約解除による放出である事が公式発表により判明している。

 

よって、報道を元に単純計算をすると、390万ユーロ−250万ユーロ=140万ユーロというワーストの推定値に辿り着く。

あくまで推定の最大値であるが、円安ユーロ高の影響もあり、加入リリース時(2023年7月3日)のレートで換算すると日本円で2億2,000万円と高額。しかし、加入後13試合7得点4アシストと大活躍でJ1残留(と経済的な利益)をもたらした事を考えると、まだ在籍半年ながら値打ちのある買い物であったと言って差し支えないだろう。

2024シーズンは春季キャンプからチームに在籍する訳で、通年での活躍や日本代表入りにも期待が掛かる一方、自ずと海外復帰も含めた新たなステップアップの可能性も高まる。2億円近い移籍金が掛かっている以上、(常識のあるフロントならば)3年〜4年程度の長期契約での加入だと思われるが、プロテクトと流出時の売却益確保の観点からも、実際の契約期間が気になる処である。

 

なお、24歳時の移籍であり、京都にとって追加の負担となるトレーニングコンペンセーションは発生しないが、京都からアラベスへ支払われた移籍補償金を140万ユーロと仮定した場合、FC東京はその内の3.75%に当たる5万2,500ユーロ分を連帯貢献金として請求する権利を持っている。

 

 

松田佳大(J2/水戸→京都)

移籍金:発生確実も金額不明

23年に東洋大から水戸へ加入した大卒ルーキーは1年でJ1へのステップアップを果たした。新卒の加入選手とはプロテクトの意味合いも含めて2〜5年の複数年契約を結ぶのが通例であり、彼についても例外ではない事がわかっている。アピアタウィア・井上(現浦和)の両CBに5千万〜1億円相当の移籍補償金を積んだ事例や、番記者の「ばっちり」という表現を勘案すると、最低でも1千万円〜3千万円程度の移籍補償金の支払いはくだらないだろう。

 

なお、23歳の年度での国内移籍となるが、公式戦が全て終了した後の移籍であり、トレーニング補償金の支払いは対象外となる。

 

 

鈴木冬一(スイス1部/ローザンヌ→京都)

移籍金:0円の可能性有

 

移籍金の発生有無は不明。2020年12月に湘南からローザンヌへ移籍を果たしており、仮に当初3年間の契約を結んで以降、更新がなければ…今回フリートランスファーでの加入となる。ちなみにサッカー選手の契約情報サイト"CAPOLOGY"では2024年1月31日までの契約とされている。

また、公式情報では2024年1月1日にローザンヌを発つと発表。これが搭乗便なのか契約期間の終わりを告げているのか不明だが、そもそもJリーグの移籍期間(ウインドー)が1月第一金曜日の5日からと想定されるので、移籍のタイミングは23歳の誕生暦年に該当せずトレーニングコンペンセーションの対象からも外れていると思われる。

Age limit

The entitlement to training compensation only arises if the trigger event occurs before the end of the calendar year in which the player reaches their 23rd birthday. Any trigger event that occurs after this calendar year does not give rise to any entitlement to training compensation.

 

 

マルコ・トゥーリオ(豪1部/セントラルコースト→京都)

移籍金:発生の可能性大も金額不明

Whilst desperate to keep Tulio, as a club we were unable to compete with the financial powers of the J-League and specifically his new club. 

Marco leaves with the very best wishes of everybody at the Mariners, departing as an Isuzu UTE A-League Champion with his name unquestionably printed in our history books.

Aリーグ・メンは秋春制であり、少なく見積もっても2023-24シーズンの終わりまでは契約を残していたトゥーリオ。特殊な契約オプションを盛り込んでいなければ移籍補償金の支払いは必須。

驚くべきは移籍元クラブ:セントラル・コーストマリナーズ公式HPに「私たちは彼の新しいクラブに資金力で敵わなかった」とまで書かれている事だが、Aリーグ・メンはMLSと同様にサラリーキャップ制を採用している。すなわち原則選手年俸に上限が定められているのだ。その為、経済的な競争力は弱い。

とはいえ海外からの引き抜きであり、為替レートも勘案すれば、年俸・移籍金の一方又は両方で一定程度の金額を積んでいる事が推測される。

 

 

中野桂太(京都→J2/徳島)

移籍金:2,300万円+α

最後に売却事例を。(2022シーズンオフと1年前だが)

京都サンガU-15〜U-18の6年+昇格後2年の8年間在籍。その為、移籍補償金の有無とは別にトレーニング補償金計2,300万円が原則発生する。育成にかかる経費を考えるとどれほどの回収率なのだろうか。

(3)移籍元クラブの第3種チーム、第2種チーム及び第1種チームに(その他のチームに移籍することなしに)連続して登録された選手に関しては、当該第3種チーム及び第2種チームにアマチュアとして登録された期間をトレーニング期間に加えてトレーニング補償金(プロからプロ)を算出し、移籍先クラブに対して請求することができる。

 

 

 

J1への準備として2021年オフには井上・アピ・上福元(+α)を移籍金を支払って獲得。京都は(成約した移籍事例では)かなり積極的に移籍金を支払っている様に見受けられる。

自前で育てるにしても、他所から獲るにしても、お金はかかる。より多くのお金を集め、使い方を間違えないことが重要だが、市場に於ける京都の立ち回り方はどうだろうか?

 

See you soon…!